遺伝子治療薬はここまで来ている

遺伝子治療薬を使った「CAR-T療法」はダブルで画期的

 難治性の白血病に対する遺伝子治療薬「キムリア」(一般名:チサゲンレクルユーセル)についてもう少し詳しくお話しします。

 キムリアは、他の遺伝子治療薬とはまったく別物で、「自分の細胞」が「薬」になります。まず採血して、血液からT細胞(白血球成分)を採取します。そのT細胞を凍結保存してアメリカの製造施設まで送った後、細胞にウイルスを使って「CD19特異的キメラ抗原受容体(CAR)」を導入します。このようにして遺伝子改変を行ったT細胞は「CAR―T細胞(カーティー細胞)」と呼ばれていることから、この細胞を用いる治療をCAR―T療法といいます。血液のがんである白血病の一部に対して行われます。

 CAR―T療法は免疫療法で、「遺伝子改変によって免疫力を高めた自分の血液でがん細胞を攻撃する治療法」です。T細胞にCAR遺伝子を導入すると、T細胞の表面にCARという受容体が現れます。このCAR分子は、がん細胞の表面にあるCD19という抗原に結合してがん細胞を攻撃し、免疫力によってがん細胞を倒す、つまり抗腫瘍効果を発揮します。

 遺伝子治療薬と聞くと、体の中に遺伝子に関連した薬を投与して治療をするというのが一般的なイメージかと思いますが、キムリアはまったく違います。自分自身の血液を使うことから、副作用が少なく、遺伝子を導入する作業を体の外で行うため安全面にも配慮されているといえます。

 また、がん細胞と免疫細胞を抗原抗体反応を使って結びつけることからその結合は強いうえ、がん細胞だけにピンポイントで作用させることができるのです。

 遺伝子治療というだけでも先進的ですが、体の外で遺伝子改変を行って再び戻すというのはダブルで画期的といえます。

神崎浩孝

神崎浩孝

1980年、岡山県生まれ。岡山県立岡山一宮高校、岡山大学薬学部、岡山大学大学院医歯薬学総合研究科卒。米ロサンゼルスの「Cedars-Sinai Medical Center」勤務を経て、2013年に岡山大学病院薬剤部に着任。患者の気持ちに寄り添う医療、根拠に基づく医療の推進に臨床と研究の両面からアプローチしている。

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