加齢とともに増えてくる「頻尿」「夜間頻尿」「残尿感」「尿が出にくい」などの男性の尿トラブル。最も多い原因は「前立腺」の肥大によるものだ。男性特有の臓器である前立腺はクルミ大ほどの大きさで、膀胱の出口に尿道を取り囲むようにある。主な働きは精液の一部の前立腺液を作ったり、尿道の収縮を調節して排尿をコントロールしたりする。
前立腺の肥大は年齢とともに急上昇し、50代で3割、60代で6割、70代では8割の人に確認される。そのうち治療が必要となる「前立腺肥大症」と診断されるのは4分の1程度だ。
頻尿や残尿などの下部尿路症状が表れるのは、前立腺の肥大によって尿道や膀胱が圧迫されて尿が出にくくなるからだ。前立腺の肥大は加齢現象とされているが、なぜ大きくなるのかの原因はまだはっきり分かっていない。ただし、男性ホルモンの働きが関与していることは間違いなく、性ホルモンのバランスの変化が原因と考えられている。
前立腺の肥大を抑える何かいい方法はないのか。独協医科大学埼玉医療センター・泌尿器科の岡田弘教授が言う。
「海外の有名な研究で前立腺に炎症がある人と炎症のない人で、前立腺がんの発生を調べた研究があります。この研究の過程ではがんは発生しないが、前立腺肥大症の下部尿路症状が表れた人も調べられています。その報告では、下部尿路症状が表れた人は炎症のある人が24%で、炎症のない人は0・6%。そのうち治療が必要になった人の割合は炎症のある人が21%で、炎症のない人は13・2%です。つまり、前立腺に炎症がある人は、前立腺が大きくなることが分かったのです」
この研究では、前立腺の炎症の有無を生検(針を刺して組織を採取)で調べているので、かなり精度の高い結果が出されているという。
そこで、前立腺の肥大を予防するひとつのポイントは、前立腺の炎症を抑える「抗炎症作用」や「抗酸化作用」のある成分を摂取すること。
食品で取ってもいいが、高濃度で摂取しないと効果は薄いので、頻尿や残尿に良いとされる一般の市販薬、漢方などの伝統的な薬、サプリメントなどでもいいという。
岡田教授が下部尿路症状の患者の聞き取りで、効果的とされる成分は次のようなものだ。
▽イチョウの葉エキス▽イソフラボン▽ウコン▽レスベラトロール▽ピクノジェノール▽コエンザイムQ10▽ノコギリヤシ▽リコペン▽フラボノイド▽アスタキサンチンなどだ。健康維持や病気治療の生活指導で必ず挙げられる「運動習慣」の効果も、数多くの研究データから確認されている。実際にメタボの人の治療で、どんな強度の運動でも実践すると、すべての患者の下部尿路症状が改善するという。
では、どんな運動をどの程度やればいいのか。
「ウオーキングの効果を調べた日本人を対象に行った研究があります。これはもともとα1受容体遮断薬で治療している患者さんで、満足できていない患者さんを対象に、夕食後に30分以上のウオーキングを行ってもらい調べています。その結果では約9割の患者さんの頻尿や夜間頻尿が改善されています」
■3カ月で効果を実感
他にも同じような研究があり、歩行数が多いほど「IPSS(国際前立腺症状スコア)」「QOL(生活の質)スコア」「尿の勢い」が良くなるという。勧められるのは1日に「1時間以上」「5000歩以上」「5キロ以上」のどれかを満たすウオーキング。同じ薬を使った患者でウオーキングを加えた人とウオーキングをしない人では、3カ月間で比較しただけでも改善度が大きく違うという。
また、睡眠中の夜間頻尿がある人は、朝起きたときに毎日、太陽光を浴びるといいという。
「普通は寝ている間は脳から抗利尿ホルモンが分泌されて、腎臓で作られる尿が濃縮され、夜間は日中の半分以下の尿量しか作られません。ところが体内時計がずれていると抗利尿ホルモンの分泌もずれて、日中の尿量が減って夜間の尿量が増える逆転現象が起こるのです。その体内時計のずれは、朝に太陽光を浴びることで正常にリセットされます」
抗炎症作用の成分、運動習慣、抗利尿ホルモン分泌の正常化など、これらの対策は、すべては前立腺肥大に関わる「インスリン抵抗性」と「テストステロン低下」というキーワードにリンクする。次回は、そのメカニズムを解説してもらう。