進化する糖尿病治療法

ダメばかりは長続きしない 悪いことを重ねないが重要

東京慈恵会医科大学の坂本昌也准教授
東京慈恵会医科大学の坂本昌也准教授(C)日刊ゲンダイ

 糖尿病をはじめ、生活習慣病は、とかく「あれをやってはいけない、これをやってもいけない」となりがちですが、それでは長続きしないのが人の常。

 私はまずは、「悪いことを2つ、3つと重ねない」を、頭にとどめておいてほしいと思っています。

 たとえば、きょうは飲み会で、唐揚げを食べて、鍋のシメの雑炊までがっつり食べてしまった。だから、あす、あさっては自宅であっさりめの食事にしよう。

 好きなスポーツの中継が夜中にある。リアルタイムで観戦したいので睡眠不足は免れないが、その間、ポテトチップスなどスナック菓子を食べるのはやめよう。

 お酒が好きで、晩酌をやめられない。だから食事は揚げ物などコッテリ系は控えめにして、運動習慣をつけよう。

 少しは我慢が必要とはいえ、これならなんとかできそうではないでしょうか? 

 都内の出版社に勤務するA子さん(45歳)は、ワインと日本酒が大好きで、おいしいものを食べることも大好き。同じ趣味を持つ友人が多く、彼らと話題の店をよく訪れています。

 先週の様子を聞くと、月曜日は仕事相手とベルギービール専門店で肉中心のコース料理と飲み放題のお酒の中からワインを何杯も。火曜日は友人と新潟料理の店で日本酒をさんざん飲んだ後、スナック2軒をはしご。水曜日は、お取り寄せで届いた白子500グラムを夫と一緒に鍋やソテーで。日本酒を2人で1升近く飲み干す。木曜日は自宅で食事をしようとスケジュールを空けていたところ、「欠員が出たから」と友人から急な誘いがあり、予約困難な中華料理屋でコース料理とワイン。金曜日は魚料理と日本酒に力を入れる店で友人と食事。シメにウニ丼を食べる。土曜日は自宅で豆腐と野菜中心のメニューを日本酒と共に。日曜日は、以前から予約していたイタリアンで夫とコース料理。

「この週はたまたまコース料理の日が続いた」とA子さんは言いますが、周囲からは「よくその食生活で、スリムな体形を維持しているな!」と驚かれるそうです。そう、A子さんはBMI(肥満指数)19~20、体脂肪率15~16%という筋肉質のスリム体形。ちなみに、BMIの基準は22、40~59歳の女性の体脂肪率は標準より少し痩せ気味が22~28%、標準より少し太り気味が29~35%です。

■自分ができる範囲で対策を

 また、A子さんは基礎代謝基準値が25・5で、30~49歳の21・7を上回っています。筋肉が多いために基礎代謝量が高く、じっとしていても痩せやすい。

 好きなものを好きなだけ食べているように見えるA子さんですが、体形維持、というより健康維持のために、A子さんは「悪いことを重ねない」を心掛けているそうです。糖尿病など生活習慣病になって、お酒と食の楽しみを奪われたくない。だから、できる対策はする。具体的には、酔っぱらってシメのラーメンを食べたり、食後に行ったスナックやバーではお通しやつまみを食べない。

 コース料理のデザートは、店の人に頼んでパス。日々の朝食と昼食は軽いものにし、「昼に揚げ物」「昼に一品もの(丼や麺類だけ)」なんてことは絶対にせず、基本は定食でご飯少なめ。間食はなし。

 数少ない自宅での食事の日は、豆腐、大根おろし、作り置きしている鶏の胸肉で作ったハムや野菜の煮物、刺し身などあっさりしたメニューにする。毎朝ジムに通い、有酸素運動と無酸素運動を日常的に行う。体重、BMI、体脂肪率は定期的にジムでチェックし、変動したら食事量を減らすなどすぐ対応する。結果、毎年の健康診断では、肝機能も含めてすべての数値が良好。

「20代の頃に何も考えずに好きなだけ食べ、好きなだけ飲んでいたら数キロ太った。その時に反省し、いろいろ試してみて、今の形になった」(A子さん)

 本来は、A子さんの食生活は決して褒められたものではありません。外食は塩分が多く、カロリー摂取量も過多になります。アルコールを連日飲めば、肝臓に負担をかけます。

 だから、せめて外食は週2~3回に抑え、きょう飲んだら、あすは休肝日を設けてほしい。

 しかしそれができないなら、食生活がよくないことを自覚した上で、自分ができる範囲で対策を講じることが必要でしょう。まさに「悪いことを重ねない」です。

坂本昌也

坂本昌也

専門は糖尿病治療と心血管内分泌学。1970年、東京都港区生まれ。東京慈恵会医科大学卒。東京大学、千葉大学で心臓の研究を経て、現在では糖尿病患者の予防医学の観点から臨床・基礎研究を続けている。日本糖尿病学会、日本高血圧学会、日本内分泌学会の専門医・指導医・評議員を務める。

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