信楽焼のタヌキの置物があると、大きくダラリと垂れた“タマ袋”につい目が行ってしまいます。お金が貯まる金運を表しているようですが、あまり格好がいい姿とはいえません。
しかし、人間にもタマ袋(陰嚢=いんのう)が大きく腫れて見える「陰嚢水腫」という病気があります。炎症を起こして腫れているわけではありませんので、痛みもなく、命に関わることもありません。タマ袋の中に何がたまって大きくなるかといえば、「腹水」と呼ばれる水(体液)です。
特に乳幼児によく見られる病気ですが、大人になってから発症する場合もあります。乳幼児に見られるのは、先天的(生まれつき)に起こるタイプの陰嚢水腫です。
男性の睾丸(こうがん=精巣)は、胎児の頃はおなかの辺りで形成されます。それが下降して腹膜の一部とくっついて、徐々に股の付け根の方に移動していき、陰嚢の中に納まります。正常なら睾丸によって引っ張られた腹膜は突起状になって閉じますが、それが閉じずに交通路が残ってしまうと腹水が流れ込んで陰嚢にたまるのです。これを「交通性陰嚢水腫」と呼びます。
先天的な陰嚢水腫は1歳までに自然治癒が期待できますが、3歳を過ぎても消失しない場合はそのまま残ります。また女児でも同じ現象が起こる場合があり、陰嚢がないのでソケイ部(股の付け根)に腹水がたまり「ヌック水腫」といいます。
一方、大人になってから起こる後天的な陰嚢水腫は、腹腔と完全に分離されていて腹水の交通路がないので「非交通性陰嚢水腫」と呼びます。原因は、性感染症による炎症やケガなどがきっかけで生じることがあり、たまる水は腹水ではなく、主にリンパ液などの体液です。
陰嚢水腫は「命に関わることがない」と言いましたが、最も注意しなくてはいけないのは「精巣がん」との鑑別です。どちらも痛みがなく陰嚢が腫れたように大きくなりますが、違いは手で触ったときの感触です。
精巣がんの場合は、がんが睾丸にできて腫れているので触ると硬い。陰嚢水腫の方は、風船のようにブヨブヨして軟らかい。
それに陰嚢水腫は水がたまっているので、ペンライトで光を当てると陰嚢全体が赤く透けて見えます。他の疾患では、このような透光性はありません。
子供も大人も水腫が消失しなければ手術で治療します。交通性はソケイ部を切開して、腹水の通り道を切り離して縫合します。非交通性は陰嚢を切開して水を出し、不要な水腫壁を切除して縫合します。
専門医が教える パンツの中の秘密