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前立腺<下>肥満が男性尿トラブルを助長…対策は4つある

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 海外の有名な研究に、前立腺に炎症があると前立腺が肥大して、頻尿を中心とする下部尿路症状が表れやすくなるという報告がある。前立腺に炎症と肥大を引き起こす要因は何なのか。独協医科大学埼玉医療センター・泌尿器科の岡田弘教授が言う。

■リンクする「メタボ」「うつ」「下部尿路症状」「ED」

「前立腺肥大症の危険因子には、メタボリック症候群(以下、メタボ)があります。生活習慣が悪くなると肥満になりますが、肥満になると『インスリン抵抗性』を引き起こします。すると、食後高血糖になって前立腺に炎症が起こるのです。また、肥満になると血中のテストステロンも低下します。この『テストステロン低下』も前立腺に炎症を引き起こすのです」

 インスリン抵抗性とは、インスリンに対する感受性が低下し、インスリンの作用が十分に働かない状態のことをいう。特に内臓脂肪型肥満では、脂肪細胞から分泌されるアディポカインという物質の種類や量が変化してインスリンの働きを妨げるため、インスリン抵抗性に陥るとされている。

 テストステロンは男性ホルモンのことで、20代をピークに加齢とともに分泌が低下する。極端に低下すると、男性更年期障害のさまざまな症状が表れる。肥満は、そのテストステロン低下を助長して、前立腺肥大症の下部尿路症状を引き起こす要因になるのだ。岡田教授は、「メタボ」「うつ」「下部尿路症状」「ED(勃起障害)」などは、すべてテストステロンを媒介してリンクし、「脳・泌尿器・生殖器」の症状が連鎖して起こるという。

「精神的ストレスが強くかかっているうつ状態になると、脳の視床下部からの指令で下垂体から分泌される黄体形成ホルモンが出なくなり、テストステロンの分泌も減ります。するとテストステロン低下によってもうつ症状が出るので、日常の活動量が減るためメタボになってしまうのです」

 テストステロン低下とうつ症状の出現の関係はこうだ。脳には扁桃体という部分があり、そこでは過去の恐怖や嫌な経験といったネガティブな記憶を保存している。通常、テストステロンはそのネガティブな記憶が意識に上がってくるのを抑える働きをしている。そのためテストステロンが低下すると、扁桃体から嫌な記憶が噴き出してしまい、うつや不安などの原因になるという。またテストステロンは、全身の血管内皮などから放出される「NO(一酸化窒素)」という物質を作り出す役割もしている。NOには血管を拡張させたり、平滑筋を弛緩させたりする働きがあり、全身のしなやかさを保つには欠かせない。テストステロンが低下すると、そのNOの放出も減ってしまうのだ。

「NOの放出が多ければ、前立腺や膀胱を弛緩させて血流量が増えるので、頻尿などの下部尿路症状がやわらぎます。それに陰茎海綿体の中でNOが出なくなると、陰茎への血流が悪くなるのでEDにもなります。テストステロンは全身のしなやかさ、若々しさを保つアンチエイジングのホルモンといえるのです」

 さらに精神的ストレスはテストステロンの分泌を低下させるだけでなく、「抗利尿ホルモン」の分泌も低下させる。脳から分泌される抗利尿ホルモンは、腎臓に作用し夜間の尿量を減少させる働きがある。この分泌が悪くなると夜間多尿になり、夜間の排尿回数が増えてしまうのだ。

■どれか一つではダメ

 これらのリンクした悪循環を断ち切り、前立腺肥大の下部尿路症状を予防したり、改善させるには、次の4つの対策が大切になる。どれか一つというわけではなく、どれも心がけて実践した方がいいという。

①前立腺の炎症を抑えるために、「抗炎症作用・抗酸化作用のあるサプリ」を摂取する。テストステロンの分泌を上げるには、②「メタボの治療・コントロール」③「運動習慣」④「精神的ストレスの解消」が有効となる。

「運動習慣は継続できなかったり、逆にストレスになってしまっては意味がありません。通勤や仕事中なども含めて、一日に1時間以上、もしくは5000歩以上、『歩く』ことを心がけるのがいいでしょう。精神的ストレスの解消も『ポジティブに生きる』『お気楽生活』といった、普段の気持ちの持ち方を変えることが大切になります」

 冬はお風呂にゆっくりつかることも、血流を良くして、ストレス解消にもなる。手足が冷えて頻尿の人は、体を温める「当帰四逆加呉茱萸生姜湯」という漢方薬を飲むといいという。

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