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干しシイタケの嫌な匂いを除き栄養を残す調理法

干しシイタケの揚げ煮(左)と卵とのスープ
干しシイタケの揚げ煮(左)と卵とのスープ(C)日刊ゲンダイ
保存食材(1)干しシイタケ

 今月のテーマは保存食材です。

 住んでいる場所や気象条件もあり、だれもが好きなときに好きな食材をいただけるとは限りません。

 それゆえ先人たちは乾燥、塩蔵、缶詰、瓶詰など、さまざまな保存法を編み出してきました。中には保存処理を施したがために、栄養やうま味が豊富になった食材もあります。干しシイタケは、その代表例です。

 そもそもシイタケには動脈硬化予防効果のあるエリタデニン、抗がん作用が期待されるレンチナンが含まれている上、干しシイタケにはカルシウムの吸収率を高めるビタミンD、腸内環境を整える食物繊維が、生シイタケの約9倍、塩分の取り過ぎを調整するカリウムは約12倍も含まれています。干しシイタケはさらに、うま味成分であるグアニル酸も豊富です。

 多くの料理本には、干しシイタケの戻し方が書かれています。水に何時間も漬けておくとか、ぬるま湯なら時短になるとか。しかし、水やぬるま湯で戻してから調理すると、シイタケがドロッとして歯応えがなくなってしまいますし、嫌な臭いが残ります。なにより干しシイタケの持つ豊富なうま味や栄養分が流れ出てしまいます。なので干しシイタケは戻さずに使います。下処理はさっと水をかけて10~15分おくだけ。その方が歯応えも残りますし、嫌な臭いもしません。

 干しシイタケは十分に乾燥、ヒダが黄白色、カサが欠けていないものを選びます。

 今回は揚げ煮とスープの2品です。戻さない調理法で干しシイタケ本来のうま味を味わってください。

■揚げ煮

《材料》
◎干しシイタケ 中6枚(さっと水をかけて15分おき、石づき、汚れを除く)
◎揚げ油  適宜
◎水  1カップ
◎梅干し  1個
◎酒  大さじ2
◎みりん  大さじ2
◎薄口醤油  大さじ1

《作り方》
 揚げ油を中温に熱し、下処理した干しシイタケをさっと揚げて、油を切る。鍋に水、梅干し、酒、みりんを合わせて煮立てたらシイタケを加え、蓋をして弱火で10分煮る(写真)。薄口醤油を加え、さっと煮立てる。

■卵とのスープ

 干しシイタケ2枚に水をかけて10分おく。石づきを除いて5ミリ幅の薄切りにしたら、3カップのチキンスープと石づきも鍋に入れ、中火にかける。2~3分煮たら、酒大さじ2、ナンプラー大さじ2、白胡椒を加え、石づきを取り出す。溶いた卵1個を、高い位置から細い線で鍋中に入れ、火を切り、絹さやインゲン5枚の斜め千切りをちらす。

▽松田美智子(まつだ・みちこ)女子美術大学非常勤講師、日本雑穀協会理事。ホルトハウス房子に師事。総菜からもてなし料理まで、和洋中のジャンルを超えて、幅広く提案する。自身でもテーブルウエア「自在道具」シリーズをプロデュース。著書に「季節の仕事 」「調味料の効能と料理法」など。

蓋をして弱火で10分煮る
蓋をして弱火で10分煮る(C)日刊ゲンダイ
生よりうま味が豊富なカラクリ

 生物としてのキノコは何に属するかご存じでしょうか。植物に似ているけれど、植物ではない。もちろん動物でもない。菌類という立派な“第三極”にある生物である。私たちが食べる部分は、植物でいうと花にあたる。季節が寒くなると開いて胞子を飛ばす。胞子は低温や乾燥に強い“種”。新しいニッチ(隙間)を求めて風に乗って広がる。茎や根にあたる部分は細い糸状になって地中に広がっているので見えないが、菌類の本体は、むしろこちらの方にある。

 菌類は植物ではないので自分で光合成してエネルギーをつくり出すことができない。なので、他の生物(主に植物)に寄り添って栄養を分けてもらう。ただし一方的に搾取しているのではなく、益もなしている。それは分解者としての作用だ。菌類の出す強力な分解酵素は、自然界では壊れにくい木材をいともたやすく分解し、自然の循環の中に戻してくれている。この分解作用によって土壌が豊かになり、他の生物の生育を支えることになる。

 キノコはそれぞれに好みの宿主がいる。シイタケの場合、その名の通り、椎やコナラ、クヌギなどの広葉樹につく。独特のうま味は、シイタケの中にある分解酵素がタンパク質やDNAを分解することによって生じるアミノ酸やグアニル酸による。この分解作用は乾燥する過程で高まるので、干しシイタケの方がよりうま味が強い。食物繊維、ビタミン、ミネラルにも富む。今では米国でも人気食材となり、スーパーに行くと、そのまま「shiitake」と表示されて売られている。

▽福岡伸一(ふくおか・しんいち)1956年東京生まれ。京大卒。米ハーバード大医学部博士研究員、京大助教授などを経て青学大教授・米ロックフェラー大客員教授。「動的平衡」「芸術と科学のあいだ」「フェルメール 光の王国 」をはじめ著書多数。80万部を超えるベストセラーとなった「生物と無生物のあいだ」は、朝日新聞が識者に実施したアンケート「平成の30冊」にも選ばれた。

※この料理を「お店で出したい」という方は(froufushi@nk-gendai.co.jp)までご連絡ください。

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