がんと向き合い生きていく

絶望の中でも援助したい 終末期患者を看護するスタッフの思い

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

「命はいつ果てるか分からない。そこに命の神秘さがある」

 どなたかが言った言葉があります。

 だいぶ前のお話です。がん病棟には40人ほどの入院患者がいて、終末期となって重症で亡くなりそうな方が常時、数人いらっしゃいました。

 Gさんは収縮期血圧が70㎜Hg台の状況が数日続き、いつ呼吸が止まってもおかしくない状態でした。その日の夕方は、準夜勤務で出勤してきたB看護師がGさんの担当になりました。日勤の看護師からの申し送りは「Gさんは、血圧70くらいだったのが午後から60台に下がりました。呼びかけには答えます」というものでした。それを受けたB看護師は、私の顔を見て言いました。

「先生、今日は帰らないわよね。医局にいてね。すぐ呼ぶから」

 夜8時ごろになってGさんの容体は悪化し、血圧は50以下まで低下しました。私は病室に駆け付け、ご臨終を告げたのが9時10分でした。泣き崩れる奥さんを、B看護師は自分も一緒に泣きながら支えていました。10時30分に家族が全員集まり、私は病気のことと経過を説明しました。

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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