肩がこると、首をぐるぐると回したくなる。しかし、それはやってはいけない。気持ちよく感じるかもしれないが、かえって逆効果になる。
東京医科大学病院・整形外科の遠藤健司准教授が言う。
「肩こりに悩む人は、多かれ少なかれ首に負担がかかっています。その状態で首をぐるぐる回したりすれば、首の関節や神経を傷つけてしまう危険性があります。それがまた強い痛みやこりを生み出す原因となり、かえって首周辺の筋肉を緊張させ、いっそう硬くこわばらせてしまう恐れがあるのです」
肩こりの原因は、首から肩、背中の表層を幅広くカバーしている「僧帽筋」の緊張による血行不良。
この筋肉の緊張をほぐすには、首をぐるぐる回しても意味がない。回すのは首ではなく肩の方。肩こりの解消には、背中の肩の部分に付いている「肩甲骨」をたくさん動かしてあげることがポイントになるという。
■肩甲骨の動きは寝違えや腰痛に直結
肩甲骨の動きが悪い(硬い)と、僧帽筋が緊張して肩こりを引き起こす。自分の肩甲骨の健康状態はどうか、「肩甲骨チェック」をやってみるといいだろう。やり方はこうだ。
①壁に背中をつけて立ち、両腕を伸ばした状態で胸と水平になるように広げる。②その状態で、ゆっくりと腕を上に向けて伸ばしていく(腕が前に出ないように注意)。③どれくらいまで腕が上がったかの角度を見る。
腕が60~90度(真上)まで上がれば、肩甲骨の動きは「良好」、45~60度は「少し硬い」、0~45度なら「ガチガチ」という判定だ。
「肩甲骨の動きを悪くさせる原因は、パソコンやスマホの操作などで長時間、同じ姿勢や悪い姿勢で肩を動かさない『不動化』です。肩こりがひどいと睡眠中の体の不動化にもつながり、朝起きたときに『寝違え』や『ぎっくり腰』が発生しやすくなるので要注意です」
睡眠中の体の不動化とは、飲酒や疲労などで体の動きが悪くなり、十分な寝返りができない状態のこと。個人差はあるが、通常なら人は睡眠中に1時間あたり4回くらい寝返りを打つとされている。寝返りが多いとしっかり睡眠ができていないと思いがちだが、寝返りは長時間、同じ姿勢でいることを防ぐための大切な動作なのだ。
寝返りが打てないと、特定の部分に負担がかかり、その部分の血流が悪くなり疲れがたまる。それで朝起きたときの寝違えや腰痛が起こるのだ。
「体がこわばっていると自由な寝返りが打てないので、寝る前に肩と股関節のストレッチをする。また、肩と骨盤を合わせて、体が一体となって寝返りが打てるか、体をゴロゴロ転がして確認してから睡眠に入るといいでしょう」
頭や体が枕や布団に沈み込むと、寝返りが打ちづらくなるので適度な高さ、硬さのものを使う。分厚い掛け布団やサイズの合っていないパジャマなども、体が動きづらくなるので要注意だ。
「下がり鎖骨」も肩こりの原因になる。鎖骨は本来、左右が少し斜め上に上がったV字ラインを描いているが、下がり鎖骨は横一本のラインに水平化した状態。鎖骨は中央は胸骨、外側は肩甲骨とつながっているので、鎖骨が下がれば必ず肩甲骨も下がる。そして、鎖骨が下がるほど、肩こりの重症度が増すことが分かっているという。
下がり鎖骨は、スマホを使っているときの長時間の悪い姿勢、片側の肩にばかり重いカバンを掛けている習慣などがあると起こりやすいという。
「スマホは画面が小さいので肩を寄せて(肩甲骨が開く)、頭を下げた姿勢になるのが良くない。つまり猫背の姿勢です。スマホを見るときは、画面を顔の高さまで上げて、スマホを持っている方の肘をもう片方の手で支えるといいでしょう。鏡で鎖骨を見て下がっていたら、肩甲骨も下がっている証拠です。運動療法をお勧めします」
下がり鎖骨を治す運動療法は、肩と鎖骨、肩甲骨を同時に動かす運動を行う。やり方はこうだ。
①肩を上げ下げする。②両肩を前後に出す。③肩で円を描くように、前と後ろに回す。④両腕を上に振り上げ、後ろに振り下ろす。⑤両腕を大きく横に振り上げ、前に振り下ろす。
この5つの運動を1日2セット、体がむくんでいる朝と夕の2回行う。毎日続けていると肩こりが改善し、次第に鎖骨と肩甲骨も本来の位置に戻ってくるという。
病気を近づけない体のメンテナンス