耳掃除好きに多い…鼓膜破れ事故が認知症リスクを上げる

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 耳掃除中に起こりやすい事故が「鼓膜が破れる」。破れてできた穴が運悪く残ると、難聴を引き起こす。長く放置した場合、アルツハイマーなどの認知症の原因になりかねない。要注意だ。

 鼓膜が破れ、穴が開くとどうなるか? 突然痛みが生じ、出血や難聴、耳鳴りが起こったり、耳が詰まった感じなどの違和感を覚えることもある。

 鼓膜は再生力が高いので、穴が小さければ1~2カ月で自然にふさがるが、この間、耳の中を清潔に保たなければならず、入浴や洗髪など日常生活が制限される。

■穴がふさがらなくなり難聴が続くのが原因

 それでも穴がふさがればいい。鼓膜に穴が開いているので水や異物が入りやすく、感染症(中耳炎)を起こしやすい。すると膿が出て、鼓膜が再生されにくくなる。3カ月以上穴が開いたままの場合、これまでは手術が検討されてきた。

「手術は、耳の後ろの皮膚を切る外切開で、鼓膜の代用となる組織を取るなど、侵襲が大きい。手術しなさいと言われても応じない人が多い」

 こう言うのは、北野病院難聴・鼓膜再生センター長の金丸眞一医師。手術は侵襲性の高さに加え、「入院や頻回の通院」「正常鼓膜ができないこともあり、聴力がさほど回復しないこともある」「耳を触った時の感覚がなくなったり、味覚の神経が損傷されるなど後遺症が起こる可能性がある」などの問題点もある。

 鼓膜に穴が開いた状態を「鼓膜穿孔」というが、手術せずに放置すると難聴が続く。加齢とともに難聴は進行する。

「鼓膜穿孔は聴力の低下だけではなく、聞こえの明瞭度を低下させます。補聴器をつけても、音は大きくなるものの音が割れるので、聞き取りはさほど向上しません」(金丸医師=以下同)

 実は近年、難聴は社会活動の減少やコミュニケーション障害につながり、脳萎縮などを招いて認知症につながりやすくするとして、その対策が喫緊の課題とされている。世界的な医学雑誌「ランセット」に2017年、興味深い論文が掲載された。

 それは、認知症の65%は遺伝的要因などで医師などの介入が不可能だが、35%は介入可能で、その35%の中には、高血圧、肥満、喫煙、糖尿病、社会的孤立などがあり、最も多くを占めるのが難聴だというもの。

 つまり、難聴の治療は、認知症予防に大いに役立つのだ。

■外来で20分でOK 世界初の鼓膜再生療法

 金丸医師は、鼓膜の代用となる組織を取る必要のない治療の研究に20年前から着手。世界に先駆けて完成させたのが「鼓膜再生療法」だ。この治療用に開発された薬剤「リティンパ」と、組織接着剤を使う。

 鼓膜穿孔があり、感染症が起こっていない患者が対象。治療は、鼓膜穿孔より大きなゼラチンスポンジの塊にリティンパを浸潤させ、鼓膜穿孔部位を覆うように置き、組織接着剤で固定。治療は外来で20分程度で終わり、入院は不要。患者には強い鼻すすりや鼻かみなど耳に圧力がかかることは避けるよう指導し、3~4週間後に外来を再度受診。1回で穴がふさがらない場合は、4回をめどに繰り返し行う。昨年11月から保険適用。

「鼓膜穿孔といっても、大きさも場所も形態も違う。小さいものから大きいものまでありますが、基本的にはかなりのものが治ります。全欠損でも、正常構造の鼓膜再生が期待できます」

 治療に伴う後遺症がほとんどなく、理想的な聴力改善が得られる可能性があるのも利点だ。

 治療を拒否していた患者が鼓膜再生療法の話を聞き、病院に殺到。北野病院では現在半年待ちくらいの状態。ほかの病院でも治療可能だ。

 この治療法によって手術なしに鼓膜形成が改善され、補聴器もある程度の割合で不要になる。結果、認知症患者の増加率を抑制できると、金丸医師は考えている。

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