病気を近づけない体のメンテナンス

脳<上>ストレスから守るセロトニンを増やす3つの習慣

グルーミングは愛情ホルモンが分泌されセロトニン活性化に
グルーミングは愛情ホルモンが分泌されセロトニン活性化に

 精神的ストレス(以下、ストレス)が加わり続けると、脳が反応して心身にさまざまな弊害がもたらされる。具体的に脳にどのように影響するのか。脳科学者(東邦大学名誉教授)で「セロトニンDojo」代表の有田秀穂医師が言う。

「ストレスによる脳の反応は2種類あります。最初はノルアドレナリン神経が働いて脳内物質ノルアドレナリンが分泌されます。すると交感神経が優位になり、『戦いモード』にスイッチが入ります。これは仕事など、集中力や緊張感が必要な場面で役立つ反応です。しかし、ストレスが継続して加わり逃れられなくなると、脳内のストレス中枢が興奮して今度は抵抗しなくなるのです。脳がフリーズした状態で、こうなると心身に悪影響を及ぼすのです」

 脳が抵抗をやめてしまうと、ストレスから体を守ろうとして副腎皮質からストレスホルモン(コルチゾール)が大量に分泌される。その作用で高血糖、高血圧となり、免疫力が抑制されて、さまざまなストレス性の病気が起こる。また、ストレス中枢の興奮によって“うつ”というメンタルの低下も起こるのだ。

 そのストレスから脳を守るには、セロトニンと呼ばれる脳内物質の分泌が重要になる。セロトニンは同じく脳内物質のノルアドレナリンやドーパミンの過剰な分泌を抑える働きをしている。ノルアドレナリンが過剰だと、危険を察知し身を守る働きがあるので、怒りっぽくイライラする。ドーパミンが過剰だと、満足できないストレスがたまり、欲求が抑えられなくなる。このバランスを調整し、脳を安定した状態に導いているのがセロトニンだ。

 そして、ストレスが増えるとセロトニンの分泌が減る、セロトニンが増えるとストレスが減る、というシーソーの関係にある。つまり、セロトニンの分泌を促すことは、脳に加わるストレスを減らすことになるのだ。

「セロトニンを増やすポイントは、『①太陽光を浴びる』『②リズム運動をする』『③グルーミング(スキンシップ)をする』です。リズム運動は、一定のリズムで筋肉の緊張と収縮を繰り返す運動で、ウオーキングやサイクリング、水泳などが有効です。だから朝早めに起きて、太陽光を浴びながらウオーキングをすれば一石二鳥。ただし、ウオーキングは歩くことだけに意識を集中してください。街中では店の看板などに気を取られるので公園や河原などを歩くのがいいでしょう」

 グルーミングは、人と人が触れ合う行為。家庭では夫婦で肩もみやマッサージをし合う、子供と遊ぶなど人と触れることで直接セロトニンが出るのではなく、「オキシトシン」という愛情ホルモンが分泌され、セロトニン活性を促すという。

 直接触れ合わなくても、親しい友人たちと食事、親しい同僚と仕事帰りに一杯、同じ趣味の仲間たちと過ごすなど、他人と楽しくコミュニケーションを取ることにもグルーミング効果がある。また、人でなくても猫や犬などのペットと触れ合うことでもいいという。

 セロトニンを増やすには、その原料となる食事(栄養素)にも気を配った方がいい。セロトニンは必須アミノ酸の一種の「トリプトファン」から作られる。体内では合成されにくいので、食事内容が悪いとセロトニンの分泌にも影響するのだ。

 ただし、トリプトファンだけでなく、セロトニンの合成に必要な「ビタミンB6」、セロトニン神経の働きを活発にする「炭水化物」も取ることが大切になる。

■トリプトファン含む食材

 大豆製品、乳製品、鶏卵、魚卵、ゴマ、ナッツ、鰹節、アボカド、バナナなど。

■ビタミンB6を含む食材 

 魚類(サケ、サンマ、イワシ、マグロ、カツオ、サバなど)、バナナ、ニンニク、ショウガ、玄米、大豆など。

■炭水化物を含む食材  

 ご飯、麺類、パン類、イモ類、果物など。

「食事は栄養摂取だけでなく、リズム運動にもなります。だから朝食を抜いたりせず、3食欠かさず食べましょう。ガムを20分間噛んで血中のセロトニン濃度の変化を調べた研究では、噛む直前に比べて噛んだ直後は8%の上昇が見られ、30分後でも7%の上昇を維持していました」

 ウオーキングなど体を動かすリズム運動をする時間がない人は、食事以外の時間にガムを20分程度噛むといい。

 そのときも噛むことに集中して、リズミカルに噛むことがポイントになるという。

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