上皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

幹細胞を吹き付ける「スプレー法」は画期的な治療になる可能性

順天堂大学医学部心臓血管外科の天野篤教授(C)日刊ゲンダイ

 そうした成分も含め、生体のりは低コストなうえ、下地を選ばずに細胞の生着率を高めたり、分布の偏りを解決する要素があるため、医療材料として見直されています。今回のスプレー法でも、生体と親和性がある既存医薬品の生体のりを混ぜることにより、心臓の表面に20~30秒ほど吹きかけるだけで、幹細胞が偏りなくしっかり生着する確率が高くなると考えられます。

 幹細胞を利用した新しい再生医療が、高度な施設や複雑な準備も必要なく、低コストで簡単に実施できるとなれば、一般に広まるのは間違いありません。広く普及すればそれだけコストも下がるので、さらに実施する施設が増えるという好循環が生まれます。

 ただ、スプレー法は臨床試験が始まったばかりなので、まだ様子を見る必要があります。現時点では、20~80歳の3人の重症心不全の患者さんに実施され、これから2年かけて安全性と有効性が確認されます。

3 / 4 ページ

天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。

関連記事