抗インフル薬「アビガン」は新型コロナに本当に有効なのか

きちんとランダム化比較試験をするべき
きちんとランダム化比較試験をするべき(C)日刊ゲンダイ

 新型コロナウイルスに有効な治療薬がないなか、政府が禁じ手を繰り出してきた。国内で有効性が証明されていないばかりか、類薬が海外で効果があるとはいえないと公表された薬を本来なすべき手続きである臨床試験もしないまま患者に投与が行われている。投与が有害であったり、副作用が出たら誰が責任を取るのか? 東京大学薬学部非常勤講師で「武蔵国分寺公園クリニック」(東京・国分寺)の名郷直樹院長に聞いた。

 本来、新しい薬を投与する場合は、患者に実験的研究である旨と治験実施計画書であるプロトコル(治験の目的、デザイン、行う根拠、統計学的考察、治験を行う組織、方法)を説明し、患者の同意を取ったうえで実施する。それも、新薬であればまずは健常者群に投与して薬の安全性を確かめたうえで、患者群に投与して有効性と副作用を調べる。その際、患者群をくじ引きで均質な2群に分けて、それぞれ本物の薬と偽薬を投与する。そうすることで、薬のみの有効性や副作用を分析する。これが常道だ。

 いわゆるランダム化比較試験だが、今回、非常事態という名の下、これらの手続きをすっ飛ばして患者への投与が行われているという。

「今回の新型コロナウイルスのように患者が大勢発生することが予見される病気であるからこそ、きちんとランダム化比較試験をして薬の有効性や副作用を調べるべきなのです。そうでないと患者に投与して回復したとしても、薬の力で治っているのか、それとも患者自身の自然治癒力で回復したのかがわかりません。しかも、致死率が高い状況では副作用が出ても、それが副作用だとわからないまま患者が亡くなり、副作用の検討が不可能になります。将来に禍根を残すやり方です」

 “もし、自分がくじ引きにはずれたら”とランダム化比較試験に参加する患者がおらず、試験が成立しないのではないか、と思うかもしれない。しかし、過去の経験からこうした重要な病気だからこそ、その意義を感じて参加する患者は大勢いるし、試験に参加せず、希望に応じて薬の投与を受ける・受けないという選択肢があることをきちんと提示すればよいという。

「仮にランダム化比較試験に参加して偽薬の群に入ったとしても、新薬の副作用のリスクはなく、結果的に良いこともありますからね。また、新型コロナウイルスによる新型肺炎は慢性疾患ではないので、数週間で一定の結果を得ることができます。ですから、試験が終わった後にその結果を受けて、続く患者が有効性が判明した薬で治療することもできるかもしれません。にもかかわらず、ランダム化比較試験を行わないのは不思議でなりません」

■類薬では効果ありとは判定されなかった

 今回、治療薬候補として名前が挙がっているのは抗インフルエンザ治療薬「アビガン」、抗HIV薬「カレトラ」、エボラ出血熱の治療薬「レムデシビル」、抗マラリア薬の「クロロキン」、さらに新型コロナウイルス感染症から回復した患者から採取した「血漿」などだ。

 このうちアビガン、カレトラ、レムデシビルについて、一部の医療機関で必要な患者に観察研究として使用を開始し、安全性に留意しつつ、参加医療機関を順次拡大。レムデシビルについては3月に国際共同医師主導治験を実施予定だという。

「抗インフルエンザ薬のひとつであるアビガンは今のところ新型コロナ肺炎の患者に投与して有効だったという数例の症例報告はありますが、まとまった患者で検討したランダム化比較試験はないようです。さらに、投与した患者と、していない患者を比較した観察研究の結果もないようです。そのため、薬の力で回復したのか、患者の自然治癒力のせいなのか不明で、多くの患者に使う根拠にならないのです」

 中国ではアビガンの類薬であるウミフェノビルとカレトラ、そのいずれの薬も使用していない患者の3群を比較した観察研究の結果が報告されている。残念ながらこの研究では、カレトラもウミフェノビルもはっきりした効果は認められないという結果だった。

「これは観察研究ですから、より重症な患者で薬が使われる傾向があるかもしれず、そのせいで3群の差がハッキリとしなかったのかもしれません。もし最初から正規のランダム化比較試験をしていれば今頃は、どの薬が新型コロナ肺炎に効果があるのか、ハッキリしていたはずです」

 新型コロナ肺炎に効く薬を見つけるのに本来の方法を取らないのはなぜか。薬の効果判定に必要なリテラシーが欠如した怪しい感染症専門家と政府による、奇怪な新型コロナ肺炎対策だからではないか。

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