Dr.中川 がんサバイバーの知恵

新型コロナウイルス がん患者は抗がん剤治療後に特に注意

消毒はアルコール入りタイプを
消毒はアルコール入りタイプを(C)日刊ゲンダイ

 新型コロナウイルス(2019―nCoV)の感染が拡大し、パニックが広がっています。新しい感染症はだれでも怖いものですが、本当にそうでしょうか。

 中国の疾病管理予防センター(CDC)は、2月11日までに感染が確認された4万4672人についてのデータを分析。その発表によると、感染者のうち80・9%が軽症で、重い肺炎や呼吸困難などの重症は13・8%、呼吸器不全や多臓器不全、敗血症など生命を左右する重篤な症状は4・7%。重篤な人のうち1023人が死亡したことで、全体の致死率は2・3%だったといいます。

 しかし、感染の“震源地”である中国の武漢を除くと、致死率は0・2~0・4%ほどに低下。0・1%未満といわれる季節性インフルエンザより高いものの、パニックを起こすほどではありません。

 致死率を年代別にみると、40代以下は0・4%ですが、50代は1・3%、60代は3・6%に上昇。さらに70代は8・0%、80代以上は14・8%と、年代が上がるにつれて増えるのです。

 がんも、年齢とともに発症リスクがアップ。男性の場合、55歳までにがんになる可能性は5%程度ですが、65歳では15%にアップし、75歳では30%を超えます。

 遺伝子の経年劣化で、年齢とともにがん細胞が増えるばかりか、がん細胞は免疫を抑える働きもある。前述の中国の疾病管理予防センターの報告では、がん患者の致死率は5・6%。新型コロナの死亡者ががん患者で高いのも、高齢者に多いのも、免疫力の低下が原因といえるでしょう。

 そのほか循環器病の人の致死率は10・5%、糖尿病は7・3%など、持病がある人の致死率が高いのも、免疫力低下が要因といえます。

 その状況を踏まえると、十分な免疫力があれば、新型コロナは軽症で済み、軽い風邪のような症状で済むと考えてもいいでしょう。

 コロナウイルスには複数のタイプがあり、中には重症肺炎を起こすMERS(中東呼吸器症候群・致死率35%)やSARS(重症急性呼吸器症候群・同10%)のようなタイプもありますが、多くは風邪の原因ウイルスです。一般の風邪は10~15%がコロナウイルスといわれますから(流行期は35%)、今回の新型も、十分な免疫力があれば乗り切れる可能性が高いと考えられます。

 ですから、健康な人は十分な栄養と休養で免疫力をキープして、通常の手洗いやうがい、咳エチケットといった風邪やインフルエンザの対策をしっかり行えばいいと思います。それに加えて対策が必要なのは、免疫力が低い高齢者や持病がある人です。

 私が専門のがんでいうと、特に注意したいのは抗がん剤治療後や骨髄移植の後。ウイルスから身を守る白血球が減ることがあるのです。こういう人は、外出を控えたり、生ものを避けたりして、手指の衛生を。手指の衛生には、アルコール入りの消毒剤が一番です。

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中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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