進化する糖尿病治療法

食生活に注意し標準体形なのに悪玉コレステロールが高い

写真はイメージ(C)PIXTA

 49歳の男性はこの数年、悪玉コレステロール(LDLコレステロール)が徐々に上がってきており、昨年10月の健康診断でとうとう基準値を超えてしまいました。

 この男性は子ども時代はややぽっちゃり、ひとり暮らしだった大学生から20代は痩せ形。30歳で5歳下の女性と結婚してからは、まだ20代の妻の食欲に合わせて外食を繰り返したことから少しずつ体重が増え始め、30代半ばでは小太り体形に。しかし、40歳になったのを機に、妻と一緒にスポーツジムに入会。少しずつ体を動かすようになりました。45歳からは妻とジョギングも始め、体重は標準範囲内。ところが悪玉コレステロールだけが高く、数値の上昇が止まらないのです。

 この男性は飲酒量は人より多い傾向があるものの、食生活は悪くありません。夫婦ともに脂っこいものをそれほど好まず、普段の食事は豆腐やきのこ、野菜類が中心。お肉を食べるとしても、豚肉のしゃぶしゃぶや皮を取って焼いた鶏もも肉、ゆでた鶏むね肉などを少量です。

 2人で外食する時も、現在は同じ40代になった妻の食事量も落ちているので、若かったころのようにガッツリ、とはいかない。クリームコロッケが好物で、2人で時折、洋食屋に出掛けるそうですが、数カ月に一度あるかないか。基本的に揚げ物は家では食べない。夜中にラーメン……なんてことは、やはり夫婦ともに「胃もたれの原因になる」と、若いころからしない。

 実はこの男性のように「運動もしている。肥満でもない。食生活も特に悪くない。しかし、悪玉コレステロールが高い」というケースは珍しくありません。なぜなら悪玉コレステロールは体質との関係が非常に深く、あまり食生活の影響を受けないからです。

 実際、この男性は悪玉コレステロールが高いものの、家庭で同じものを食べている妻はむしろ低い。なお、妻の方が男性より酒量が上で、友人と焼き肉屋やエスニック料理屋などに出掛ける機会も多いとのことです。

 年齢が5歳下、しかも女性は閉経までは女性ホルモンがコレステロールの上昇を抑えるとはいえ、もし食生活の影響が大きいのであれば、妻も悪玉コレステロールが高くなっても不思議ではありません。

 体質の関与が大きい悪玉コレステロールの対策は、残念ながら、スタチンなどの薬の服用が確実です。

■食生活に気を付けていても血管は加齢とともに傷む

 悪玉コレステロールが高いままでいると、動脈硬化が進み、心筋梗塞、脳卒中のリスクを高めます。

 どんなに食生活に気を付けていても、加齢とともに血管は傷みます。すなわち、悪玉コレステロールは加齢とともに上昇していく。食生活の改善などで数値を下げられない以上、適切なタイミングで薬を飲み始めた方がいいのです。

「スタチンは副作用が怖い」といって拒否する患者さんもいますが、医師の指導下で服用している限り、副作用の確率は非常に低い。

 悪玉コレステロールを放置して迎える結末の方が怖いのです。

 冒頭の男性は、悪玉コレステロール以外の中性脂肪、血圧、血糖値などすべて基準値以内。悪玉コレステロールも基準値を超えたばかりということもあり、薬の服用はしばらく様子を見ることになりました。しかし、このまま上昇が続くなら、「薬を飲みます」と本人が言っています。

 一方、薬の飲み始めのタイミングに迷うのは、悪玉コレステロールと並んで脂質異常症の判定基準になる中性脂肪です。中性脂肪は悪玉コレステロールと違い、食事の影響を非常に受けやすい。健康診断の数日前から動物性の食品や脂っこいものを控えれば、検査日には中性脂肪が低めに出ることがありますし、逆に健康診断後に普通の食生活に戻したために、健康診断の結果よりも数字が高くなっていることもあります。常時監視をすることができないので、様子を見ているうちに中性脂肪が高くなっていることもあります。

 悪玉コレステロールと比較して心血管イベントのリスクを上げる報告は多くはないとはいえ、リスクであることには変わりません。とはいえ、中性脂肪が空腹時に低い数字である時があっても、食後300を超えたりしていれば別のタイミングで採血すれば高い数字であることも十分考えられます。善玉コレステロールが低いといった条件も合わされば、薬の検討もした方がいいと私は考えています。

坂本昌也

坂本昌也

専門は糖尿病治療と心血管内分泌学。1970年、東京都港区生まれ。東京慈恵会医科大学卒。東京大学、千葉大学で心臓の研究を経て、現在では糖尿病患者の予防医学の観点から臨床・基礎研究を続けている。日本糖尿病学会、日本高血圧学会、日本内分泌学会の専門医・指導医・評議員を務める。

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