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脳<下>ストレスを解消し脳を癒やす方法 睡眠だけじゃない

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 心身のストレスを解消して脳を癒やすには、「質の高い睡眠」が非常に重要になる。眠ることで外部からの情報を遮断し、ストレス刺激による大脳皮質の活性を抑えているからだ。

 質の高い睡眠を得るには、睡眠ホルモンといわれる「メラトニン」の脳内の分泌を正常に保つ必要がある。

 脳科学者(東邦大学名誉教授)で「セロトニンDojo」代表の有田秀穂医師が言う。

「太陽が沈み暗くなってくると、脳中央の松果体からメラトニンの分泌が始まり、次第に体温を下げて眠気をもたらします。メラトニンの分泌は午前0時から2時をピークに、徐々に減っていきます。そして朝になって太陽光を浴びるとメラトニンの分泌が止まり、今度はセロトニンという脳内物質の分泌が始まって脳が目覚めます。実はメラトニンは、このセロトニンを原料に作られているのです」

 つまり、メラトニンの分泌を正常に保つ秘訣は、日中のセロトニンの分泌を正常に保つことが大切になる。そのためには朝は規則正しく起きて、きちんと太陽光を浴びること。セロトニンとメラトニンの分泌のリズムを整えてやるのだ。

 しかし、ストレスが増えるとセロトニンの分泌が減る、セロトニンが増えるとストレスが減る、という関係にある。夜遅くまで仕事をしていたり、スマホのSNSやゲームなどで夜更かしをして睡眠時間が少ないとストレスが十分に解消されず、セロトニン欠乏という悪循環に陥るのだ。

「現代のストレスの多くは、頭脳労働による脳の疲れです。その状態は交感神経が活性化していて、眠りのスイッチとなる副交感神経がうまく働かず、“眠れなくなる”ことが一番の問題です。睡眠の質が悪いと、朝の目覚めが悪くなり、日中は集中力の低下、キレやすい、イライラする、意欲の低下などが起こります」

 人の脳は、読み、書き、話す、計算などの言語、論理的思考などを担当する「左脳」と、図形や映像の認識、イメージ記憶などをつかさどる「右脳」がある。現代のストレスで疲れてしまうのは主に左脳の方だ。このようなことから、右脳を働かせて左脳を休めるような音楽を聴くことも、疲れた脳を癒やすひとつの方法になるという。

 脳をリラックスさせ、セロトニン活性を促すためにいい音楽は、無意識に近い形で右脳が受け流すメロディーのない自然音。

 たとえば「川のせせらぎ」「小鳥のさえずり」「森林の風音」「海の波音」「イルカの鳴き声」など。歌詞やメロディーのない太鼓などの「リズム音」でもいいという。

 仕事で疲れを感じたら、これらの音をイヤホンで聴きながら目を閉じて、脳を少し休めてやるとストレスの軽減になる。

■「涙活」が神経を切り替える

 効果的にストレスを解消させる、脳を癒やす方法はまだある。それは人間の大人でしか起こらない「感動の涙」を流すこと、いわゆる「涙活」だ。

「なぜ涙活がストレス解消に効くのか、それは交感神経優位から副交感神経優位へと一気に切り替わるからです。緊張している脳が解き放たれてリセットされるのです。普通は睡眠によって脳を休ませますが、感動して流す涙は起きていながらにして睡眠に近い効果をもたらしてくれます」

 感動の涙は人に共感して流れるが、その際には脳の内側前頭前野(おでこの部分)にある「共感脳」といわれる部分の血流量が増加する。するとストレス中枢の興奮が静まり、脳全体が癒やしの状態にリセットされるという。

 涙活の具体的なやり方は、自分が感動できる映画やドラマ、DVDなどを見て泣く。テーマは友情もの、恋愛もの、動物もの、親子の絆、スポーツシーンなど何でもかまわない。ただし、ホラー映画はNG。恐怖は共感脳の血流量を減らし、セロトニンの働きを弱めてしまうからだ。

「ポイントは泣きたくなったら我慢したり、途中で止めたりしないことです。できれば思いっきり泣いてもらいたいですが、一粒でも涙が出れば副交感神経優位に切り替わります。涙の効果は長く続くので、毎日泣く必要はありません。週1回、週末の夜にでも涙活の時間を持つといいでしょう」

 泣いた後には「気持ちがスッキリする」「お腹がすく」「眠くなる」などの効果が表れる。これは副交感神経がきちんと働いているエビデンスサイン。たまには“男泣き”して、脳の疲れを洗い流そう。

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