新型コロナウイルス感染症で、感染リスクが高く重症化しやすいのは中高年だという。中国の疾病管理予防センターが2月上旬までのデータを分析したところ、年代別致死率は40代は0・4%だが、50代1・3%、60代3・6%、70代8・0%、80代以上14・8%だった。しかも、感染に気付かずに活動する若い世代からウイルスをうつされる危険性があるというから恐ろしい。新型コロナウイルス感染症には有効な治療法はない。回復するか否かは患者の免疫力次第だ。そんな中、中高年は何をしたらいいのか。「弘邦医院」(東京・葛西)の林雅之院長に聞いた。
「よく、免疫力をアップさせれば感染症は防げるのではないか、と考える人がいますが、そう簡単ではありません。そもそも免疫力という言葉は曖昧で、科学的な用語ではありません」
例えば免疫には、がん細胞、細菌、ウイルス、寄生虫などを撃退するなどさまざまな機能がある。その機能を果たすために多くの細胞や組織が部品として働いている。しかし、その部品のひとつの働きが良くなり、その数が増えたからといって、免疫組織そのものの働きが良くなるとは限らない。しかも、免疫力を計測することはできないのだという。
「血液検査で病原体と闘う白血球やTリンパ球、NK細胞などを調べても免疫力を測ったことになりません。リンパ球でいうと、血液中には2%しかおらず、残りは血液以外のところにいますし、Tリンパ球の数は朝と夕方とでは倍ぐらい違います。血液検査でわかる免疫に関する細胞なんてほんの一部に過ぎないのです」
定義も曖昧で、正確に計測できない免疫力だからこそ、その強化をうたう、非科学的な免疫力アップ法に多くの人が惑わされるのだ。
「科学的に信頼できる唯一の免疫強化法はワクチンです。麻疹は2回の摂取でほぼかからなくなりますし、効き目が悪いといわれる季節性インフルエンザワクチンでも有効率は30~60%あります。しかし、新型コロナ感染症のワクチンは開発されていません。ウオーキングやストレッチなどで白血球やリンパ球が流れる血液やリンパの循環を良くすれば免疫を高めることは可能です。しかし、運動習慣のない人が急に運動をすれば、それだけでストレスとなり逆効果です。それなら、免疫力アップよりも低下しないことを考えることが大切です」
実際、「余命3カ月」を宣告された男性のエイズ患者が落ちていた免疫力を元に戻すことで3年間延命したという話があるという。
「当時は今ほどエイズという病気がわかっておらず、その男性は家族と離れて孤独な闘いを強いられていました。主治医が、死期が近いその男性と子供たちを毎日会えるように取り計らったところ、男性はすっかり元気を取り戻して笑顔で過ごすようになりました。最終的にエイズで亡くなったのですが、人と触れ合うことが免疫力を回復させ、長生きにつながったのだと思います」
笑いや人との交流が人間の免疫力を維持・強化させ、逆に孤独は免疫力を低下させ肥満や喫煙と同程度の病気リスクとなることが知られている。
ところが今は感染拡大阻止のため、風通しの悪い空間で至近距離から話すのは控えるよう促されている。テレワークが推奨され、カラオケ、立食パーティー、自宅での大人数での飲み会も危険とされている。これでは中高年は行き場がない。
「私は、中高年は部下や大勢の飲み会は避けるにしても、感染リスクに配慮しつつ少数の親しい同年代同士でお酒やお茶を楽しんだりしてストレス解消するのも手だと思います。若い人をあまり見かけないゴルフ場に出かけるのもいいでしょう。サラリーマンの多くは今が年度末で慌ただしいうえ、異動や転勤など心が不安定になりやすい。自営業者にとっても借金の返済を迫られる時期でストレスがかかります。子供の受験もあり、離婚件数も多い。なにより3月は自殺が一年間でもっとも多く、政府も例年、自殺対策強化月間に指定しています。新型コロナウイルスに打ち勝つだけでなく、心の健康を得るためにも、会話と笑いが必要だと思います」
散歩やジョギングといった屋外活動、買い物や美術鑑賞など人との接触が少ない活動は感染リスクが低い。政府がそれを奨励するのは当然だろう。しかし、ストレスが重くかかる中高年がそれで心が満たされるわけではない。むしろ、窮屈さや孤独からストレスが増して免疫力が低下し、新型コロナウイルス感染症にかかりやすくなるかもしれない。「50歳時」の未婚率を示す「生涯未婚率」は男性23・4%、女性14・1%で独身の中高年が多いのだ。
こういうときだからこそ、中高年は感染リスクに気を配りながらも、語り、笑い、絆を確かめるための居場所づくりに知恵を絞るべきだ。