がんと向き合い生きていく

がんが発覚して診療できなくなった医師が見つけたもう一つの人生

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 奥さんに叱咤され、Rさんは喉頭全摘の手術を受けました。呼吸は、鼻と口が関係なくなり、気管切開した穴で行われます。咳をした時は、その穴から痰が出てきますが、普段は首にガーゼを巻いて穴を隠してあります。食事は口からできて、誤嚥することはなくなりました。

 それから3年がたち、幸いがんの再発はありません。初めはボードに字を書いて会話をしていましたが、今は左手でELを首に当てて話します。

 そんなRさんからお手紙をいただき、私は3月にご自宅を訪ねました。お会いするのは20年ぶりで、痩せておられましたが元気そうです。玄関にはたくさんの植木鉢が並んでいました。外科医院は閉じて、今は娘さんが嫁いだ先の園芸店に勤めているそうです。

 Rさんは「私にはもうひとつの、別の人生がありました。山野草のちっちゃな花が咲くと感動します。植物は人間よりも偉い」と言って、にっこりほほ笑まれました。

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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