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前立腺がん治療の一つが「何もしないで様子を見る」こと

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

(国際医療福祉大学熱海病院検査部・〆谷直人部長)

 前立腺がんの場合、発病時の年齢、これから先どのくらい生きられるかの見通し(期待余命)、患者さんの治療に対する考え方などが、治療を選択する上で大切になります。なぜならば、治療によって生活の質(QOL)の低下に加え、生殖能力を失うことにもなるからです。

 そのようなことを背景にして、早期の前立腺がんには、手術や放射線療法などの治療を何も行わず、放っておく(=経過観察する)「監視療法(待機療法)」という治療概念があります。

 何もしなくて本当に大丈夫なのか? といった不安もあるでしょう。国立がん研究センターが発表した主要な16のがんの「10年生存率」によると、前立腺がんは94・5%で最もよい。進行も緩やかなため、早期なら、すぐに治療を行わなくてもいいケースがあるのです。ただし、「がんが転移せずに前立腺の中にとどまっていてリスク分類で低リスクと判断された場合」に限ります。また、まったく何もしないわけではなく、3~6カ月ごとに腫瘍マーカーである血中PSA値を測定。変化の様子を見守ります。PSA値が上がったり、病状に明らかな悪化が見られたら、改めて積極的治療を検討します。

 前立腺がんでは手術や放射線治療、ホルモン療法がありますが、副作用や後遺症はゼロではありません。治療後、排尿障害や勃起不全(ED)が起こり、生活の質が著しく下がる人もいます。「監視療法」を選択すると、治療による合併症がなく、生活の質が維持される利点があります。がんの進行が遅いほど治療しないメリットを得やすくなります。

 米ミネソタ州立大学などの研究チームの分析結果によると、死亡リスクの差は「監視療法」群より手術群の方が約5%低かったものの、統計上は有意な差ではない。逆に排尿障害や勃起不全の症状を起こした人は、手術群の方が明らかに多かった。前立腺がんは、高齢男性が多くかかるがん。死亡率にあまり差がないのなら、自分の「余命」を考えて、「治療」か「監視療法」か、選択することは大切です。

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