病気を近づけない体のメンテナンス

骨<上>骨質の良し悪しは「善玉架橋」の多さで決まる

コップ1杯の牛乳で230ミリグラムのカルシウム
コップ1杯の牛乳で230ミリグラムのカルシウム

 人の体を形成している「骨」。加齢とともに誰でももろくなるが、それが進行して、ちょっとした力が加わっただけで折れてしまう。それが「骨粗鬆症」の状態だ。

 山瀬整形外科(神奈川県相模原市)の長谷川亜弓医師が言う。

「骨粗鬆症の人が転倒して起こる『大腿骨近位部骨折』(脚の付け根付近の骨折)の発生数は、欧米では頭打ちです。対策が功を奏したからです。しかし、日本では依然として増加傾向にあり、2018年では年間19万件でしたが、この先10年は年間30万件になると予想されています。だからこそ骨粗鬆症の予防や治療が重要視されているのです」

 怖い話だが、60歳以上で急増する大腿骨近位部骨折は、約10%が起こした1年以内に亡くなり、治っても約30%は介護が必要になるとされる。

 骨は生きている組織なので、骨を作る「骨形成」と骨を壊す「骨吸収」の骨代謝を繰り返し、絶えず新しい骨と入れ替わっている。年を取ると骨が弱くなるのは、骨形成と骨吸収のバランスが崩れるからだ。特に女性は閉経後に骨量(骨密度)が急激に低下する。

「骨粗鬆症患者は約1300万人とされますが、その約8割は女性です。閉経後に骨量が急激に低下するのは、女性ホルモン(エストロゲン)の分泌が急激に減少するからです。エストロゲンは骨を壊す『破骨細胞』の働きを抑え、骨を作る『骨芽細胞』を活性化して、骨代謝のバランスを整えているのです」

 男性はもともと骨量が多く、女性よりも骨粗鬆症になりにくいが、病気や薬、栄養障害が原因になることが多いという。病気では「糖尿病」「腎機能障害」「COPD(慢性閉塞性肺疾患)」など。薬では「ステロイド剤」「抗うつ薬」など。栄養障害は「胃や腸の切除後」「アルコール多飲」などがあれば要注意だ。

 骨量のピークは、女性は10代の前半から半ばにかけて、男性は20歳くらいまで。20~30代の多くは骨量を維持できているが、40代以降になると個人差はあるが減少していくので、そのスピードを遅らせることが大切になる。

「骨量」とは、骨の中にあるカルシウムの量のことだが、骨の強さを決めるのはそれだけでない。骨の強さは「骨量7割」「骨質3割」といわれ、その両方を強くすることが大切という。

「骨を鉄筋コンクリートの建物で例えると、骨量はコンクリートの部分になります。一方、骨質は『骨のしなやかさ』といわれ、その良し悪しを決める要素のひとつに『コラーゲン架橋』と呼ばれるものがあり、それが鉄筋の部分に相当します。このコラーゲン架橋には善玉と悪玉があり、骨質を良くするには『善玉架橋』を増やすことが重要になるのです」

 骨量を増やすための薬は数多くあるが、善玉架橋を増やす薬はない。加齢や酸化ストレス、持続的な高血糖状態(糖尿病)があると悪玉架橋が増えて、善玉架橋の形成が抑制される。

■1日に牛乳1杯か乳製品を

 善玉架橋を増やすには、バランスの取れた食事や運動、規則正しい生活などがポイントになるという。

 食事は骨を作るのに欠かせない栄養素の摂取。「カルシウム」は当然だが、カルシウムの吸収を高め、骨への沈着を促進する「ビタミンD」、骨芽細胞からコラーゲン産生を促し、骨質を改善させる「ビタミンK」などを積極的に取るのがいい。

「カルシウムは海藻類や青菜、大豆に多く含まれますが、吸収率が高いのは乳製品です。また、タンパク質は骨や筋肉の材料として不可欠で、加齢とともに摂取量が減るので、意識して肉や魚、大豆や卵などは食べた方がいいでしょう。魚や大豆、海藻やキノコ類などには、ビタミンDやビタミンKも含まれていて、これらを同時に食べるのが望ましいので、具だくさんのシチューや味噌汁などにすれば、バランス良く多くの食材を取り入れることができます」

 体内のカルシウムの99%は骨に蓄えられ、残りの1%が血液中にある。しかし、血中のカルシウムが不足すると、骨の中のカルシウムを溶かし血中に補給する。カルシウムの摂取量が少ないと、骨の中のカルシウムがどんどん減ってしまうのだ。

 大人のカルシウム摂取目標量は1日に600~800ミリグラムだが、実際の1日の平均摂取量は400ミリグラムくらい。牛乳は200ミリリットル(1杯)で230ミリグラムのカルシウムが取れる。最低でも牛乳を毎日1杯、もしくは乳製品を積極的に取るようにしよう。

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