緊急企画 新型コロナを正しく恐れる

中国の論文から見た新型肺炎「重症リスクの高い人」とは

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 これまで情報が錯綜し、事実が見えてこなかった新型コロナウイルス感染症の正体が徐々に明らかになってきた。これまでも新型コロナに関する論文はさまざまな生命科学・生物医学メディアに数多く投稿されているが、先月末には中国・武漢の仁安醫院がICU(集中治療室)に入院した重篤な患者52人を28日間調べた論文が世界的権威のある医学雑誌「ランセット」に掲載された。どのような人の死亡リスクが高いのか、発症からどのような経過をたどり、最終的にどのような死因で亡くなったのか。弘邦医院の林雅之院長に聞いた。

「論文を見ると、死亡リスクに最も関係していると思われるのが年齢です。やはり高年齢の層のリスクが高かった。論文の対象となった患者さんの平均年齢は59・7歳で、60歳超が27人(52%)。そのうち亡くなったのは32人(61・5%)いました。39歳以下の患者さん6人は全員回復しましたが、40~49歳の患者さんは6人中3人が、50~69歳では30人中20人が、70~79歳では8人中7人が死亡しました。80歳以上は2人とも亡くなっています」

 実際、死亡者の平均年齢(64・6歳)は生存者のそれ(51・9歳)より高かった。また、新型コロナはこれまでも「持病のある人は重症化しやすく危ない」といわれ、心臓病、肺疾患、がん、糖尿病にかかっている人はリスクが高いとされてきた。論文では52人のうち21人は慢性疾患があったという。しかも、脳梗塞や脳出血、くも膜下出血などの脳血管疾患があった7人(13・5%)は全員死亡している。発症後52人の患者の大半は臓器障害を起こしていた。急性腎障害が12人(23%)、心機能障害が15人(29%)、肝機能障害が1人だったが、最も多いのは急性呼吸窮迫症候群(ARDS)で35人(67%)いた。

「急に発症して肺の中でのガス交換に支障を来す病態で、重篤な肺炎や誤嚥性肺炎、敗血症などの基礎疾患に続いて1週間以内に発症する低酸素血症です。胸部のX線画像では両側の肺に炎症による影が認められるのが特徴です」

 ARDSは急激な呼吸困難が発生し、放っておくと多臓器不全を起こし死に至ることが少なくない。実際、生存者のARDSの発症率45%に比べて死者のそれは81%と高かった。症状で最も多かったのは発熱で52人中51人に見られた。以下、咳、呼吸困難、疲労感という順だが、52人のうち6人は発症から2~8日後まで発熱は見られなかったという。発症からICUへの入院の日数は7~12・5日だから、人によっては発熱とともに重篤な状態に陥ったと考えられる。

「つまり、新型コロナウイルス感染症は急激に悪化して、年を取ると、発熱により新型コロナを疑っては遅すぎることがある、ということです。ですから、熱がなくても咳があり、疲労感があるという高年齢層は、新型コロナに対しては注意が必要です」

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