放っておくと命に関わることも…鼠径ヘルニア最新手術事情

放置しておくと腸閉塞や腹膜炎を起こし…
放置しておくと腸閉塞や腹膜炎を起こし…(C)日刊ゲンダイ

 鼠径ヘルニアとは、いわゆる脱腸のこと。足の付け根の辺り(鼠径部)で筋膜が薄くなっている部分から、腸などの内臓が腹腔外に飛び出してしまった状態をいう。人に見せたくない場所の疾患だけに、恥ずかしさもあってなかなか病院を受診しない人が多い。

「歩くことも困難なほど鼠径部が膨らんで、どうしてここまで放っておいたのかと思う患者さんもおられます。しかも、手術となると長期間、仕事を休まなければいけないと思い込んでいて、それも病院を敬遠する理由になっています。しかし、それは思い込みに過ぎません。鼠径ヘルニアの手術は日帰りでも可能です。だから鼠径部が膨らんできたら、ためらわずに外科を受診することです」

 こう言うのは、「東京デイサージェリークリニック」(東京・日本橋)の柳健院長だ。東京駅に至近の同院では、「オンステップ法」という新たな鼠径ヘルニアの手術法を取り入れているという。

「鼠径部には、鼠径管という生まれる前にお腹の中にある睾丸が下りてくる筋道があるのですが、加齢と共にそれが広がり、腹膜が中身の腸と共に袋状に飛び出してくる。これが鼠径ヘルニアです。放置しておくと、内容物が元に戻らない、鼠径ヘルニア嵌頓という状態に移行して、腸閉塞や腹膜炎を起こして命に関わる事態になることもあります」

■女性には使えない男性独自の術式

 鼠径ヘルニアにかかりやすいのは主に40代以上の男性。お腹に力のかかる仕事や立ち仕事をしている人、例えば、宅配便や引っ越しの仕事をしている人や、美容師、理容師らに多い。BMIにして25以上、身長170センチなら72キロ以上の肥満の人も内臓脂肪がお腹に圧力をかけるために要注意だ。また、便秘気味の人はいきんで便をする習慣があり、お腹に圧力がかかるので鼠径ヘルニアが目立つそうだ。女性は比較的少ないという。

 大人の鼠径ヘルニアは自然に治ることはなく、薬もない。手術による治療が唯一の根治法だ。ヘルニアバンド(脱腸帯)を使う人もいるが、単に脱腸を外から押さえ込むことで、一時的に鼠径ヘルニアの症状を軽くしているだけのその場しのぎであり、治すことはできない。むしろ、ヘルニアバンドの圧迫により、皮膚障害や内臓の損傷を引き起こす可能性がある。

 同院が採用した「オンステップ法」はポルトガルの医師が考案した術式で、日本では2016年末から導入が進んでいるという。その中心的な存在が柳院長で、2年間で345例を経験したそうだ。

「鼠径ヘルニアの手術では、ポリプロピレン製のメッシュという人工補強材で患部を補強するのですが、オンステップ法はこのメッシュを、精索をまたいで筋膜の下と筋肉の上という違う層で補強するのが特徴です。こうすると精索でメッシュが固定されるので、メッシュが安定し、神経を傷つけることなく補強することができる。男性にしかない精索を必要とするので、女性には使えない男性独自の術式です」

 日本において鼠径ヘルニア手術件数は年間15万件以上と推計されている。柳院長によると、腹腔鏡による手術も可能だが、同手術は切開が小さく術後早期の痛みが少ない代わりに、合併症のリスクもあり全身麻酔が必要で、手術費用も開腹手術の倍以上かかる。気管内挿管や尿道カテーテルの挿入も必要になることが多いため、入院になることが普通だ。一方、開腹手術、特にオンステップ手術では、全身麻酔が不要で日帰り手術に適しており、合併症リスクが低いという。

 同院では手術当日は、手術時間を含めて1時間30分程度の病院滞在時間で、費用は3割負担で4万3000円ほどが目安になるそうだ。

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