緊急企画 新型コロナを正しく恐れる

急ピッチで進むワクチン開発で新型コロナの危険度が分かる

恐れることはない(中国・河南省の疾患予防コントロール・センターで、抗エボラ出血熱「レムデシビル」で最終段階の臨床実験を行う研究員)
恐れることはない(中国・河南省の疾患予防コントロール・センターで、抗エボラ出血熱「レムデシビル」で最終段階の臨床実験を行う研究員) (C)ロイター/新華社

 世界各国で新型コロナウイルス感染症(COVID―19)に対するワクチンの開発が進んでいる。米国ではワクチン開発費用などに充てる約8700億円の緊急対策法案が成立。大手製薬会社は企業間で協力することを約束し、米国立アレルギー・感染症研究所は「1年から1年半後にはワクチンが使用可能になるだろう」としている。また、上場ベンチャー企業が開発したmRNAベースのワクチンの臨床試験も近いうちにスタートする見込みだ。

 日本でも大阪大とバイオベンチャーのアンジェスが共同で予防用DNAワクチンの開発を進めていて、最短で6カ月後には臨床試験に入りたい考えだという。

 ワクチンは、毒性や感染能力を失わせたウイルスをもとに作られた薬剤を接種することで免疫反応を起こさせ、体内にウイルスを“敵”と認識する抗体をつくって感染しにくくする。また、mRNAワクチンやDNAワクチンといった遺伝子ワクチンは、ウイルスそのものではなく、ウイルスがヒトの細胞に侵入するために必要なタンパク質の遺伝子配列をコードした分子などを使用する。接種するとウイルスのタンパク質に対する抗体がつくられ、感染しにくくなったり重症化を抑える効果が期待されている。

 市場に出回るようになるまではまだ時間がかかりそうだが、いずれ新型コロナウイルスのワクチンが完成するのは間違いない。感染を予防できるレベルまで抗体の量がつくられるのか、効果が持続する期間はどれくらいか、何回接種すれば抗体が生着するのかなど、臨床試験で確認されるまでどうなるかもわからない。ただ、少なくとも「ワクチンができる」ということは、新型コロナウイルスはそこまで恐れるほど強力なウイルスではないという証左といえる。

 岡山大学病院薬剤部の神崎浩孝氏は言う。

「今回の新型コロナウイルスと違って、たとえばエボラウイルスやラッサウイルス、HIVといったウイルスの感染症に対するワクチンは今も完成していません。理由はいくつもありますが、まずは危険度の問題があります。エボラやラッサは致死性の高い重篤な疾患を引き起こし、感染力が高い強力なウイルスで、バイオセーフティーレベルは最も高いレベル4に指定されています。このクラスのウイルスの実験を行うにはレベル4施設が必要で、日本では現時点で2カ所しかありません。世界でも50カ所足らずなので、なかなか研究が進まないのが現状です。新型コロナウイルスの臨床検体の取り扱いはインフルエンザと同じレベル2施設で、大量増殖や実験はレベル3施設で行われます。つまり、致死性や感染力の危険度はそこまで高くないと判断されているということです」

 同じく効果的なワクチンが完成していないHIVはレベル3で取り扱われるが、ウイルスの変異速度が速いことがネックになっている。さらに、ウイルスが増殖する際の仕組みがワクチンを作りにくくしているという。

「HIVは、細胞内に侵入するとその細胞のDNA自体を書き換えることで増殖していきます。いったん体内に入れると“治せない”状態になってしまうので、毒性や感染力を失わせた不活性ワクチンだったとしても、接種して万が一でも感染してしまうと取り返しがつきません。一方、新型コロナウイルスやインフルエンザウイルスは、まず細胞にくっついてから細胞内に侵入し、自身のRNAやDNAを複製することで増殖します。ウイルスを排除すれば感染症を発症しても一時的なものなので、比較的安全なワクチンを作れるといえます」(神崎浩孝氏)

 3月10日時点で日本では新型コロナウイルス感染症の患者446人(チャーター便帰国者およびクルーズ船の乗員・乗客を除く)中、死亡者は9人で、77人が退院している。無症状だった患者も52人いる。

 高齢者や基礎疾患がある人は別だが、過剰に怖がる必要はない。

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