Dr.中川 がんサバイバーの知恵

堀ちえみさんもブログに 赤ら顔の人は食道がんリスク95倍

歌手・タレントの堀ちえみさん
歌手・タレントの堀ちえみさん(C)日刊ゲンダイ

 東大周辺は、桜が咲き始めています。新型コロナウイルス騒動で、今年は花見も自粛になるのでしょうか。下戸の方は、内心、ホッとしているかもしれません。

 舌がんと食道がんを克服されたタレントの堀ちえみさん(53)は先月12日のブログにこんなことを記しています。「お酒が飲めた時は、飲み会も多かったのですが、あまり好きではなかった。(中略)私は飲んだら顔に火がついたみたいに、真っ赤になっていました」と。

 なぜそんな報告をしたかというと、主治医に飲酒と食道がんの関係について教わったのがキッカケ。

 そう、食道がんは飲酒の影響がとても強いがんなのです。

■日本人の45%に関係する国民的体質

 アルコールが体内で分解されてできるアセトアルデヒドには、発がん性があります。これを無害な酢酸に分解するのが、2型アルデヒド脱水素酵素(ALDH2)です。

 この酵素の遺伝子には正常型と欠損型があり、両親からともに欠損型を受け継いだ「完全欠損型」は日本人の約5%。まったく飲めないので、発がんの心配はありませんが、問題はどちらか一方が欠損型の「部分欠損型」です。

 日本人の45%は部分欠損型で、“そこそこ飲める”タイプ。いわゆる赤ら顔の人です。堀さんも恐らくこのタイプなのでしょう。

 部分欠損型がお酒を大量に飲み続けると、飲まない人に比べて食道がんのリスクは10倍に上昇。特に日本酒換算で3合以上飲み、さらに喫煙すると30倍にハネ上がるといわれます。中には95倍になるという報告もあるほどです。私もお酒が好きですが、がんの専門医として赤ら顔で深酒を続ける人を見ると、心配になります。

 飲み始めたころは顔が赤くなっていたのに、それほど赤くならなくなってきたという人もいるでしょう。もともとの体質は、分解酵素の活性が低く、お酒に弱いのですが、飲酒が習慣化し、アルコール代謝を繰り返しているうちに酵素の活性が少しずつ高くなることがあるため、そういう人もいるのです。

 しかし、それでアルコール耐性がよくなったとしても、ともに正常型に比べると、アセトアルデヒドの毒性に長くさらされやすい。食道がんのほか、咽頭がんの罹患率が高くなる傾向があるので、“赤ら顔克服タイプ”も要注意です。

 この酵素の欠損型は日本人や韓国人のほか一部の中国人などに特有で、英語ではアジアン・フラッシュといいます。特に日本人に特徴的なことなのです。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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