医療情報の正しい読み方

自然に治る病気に対する薬の効果を検討するのは簡単ではない

写真はイメージ
写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 治療をしないと100%死んでしまう、治療をすれば死亡率0%というような治療効果は、手間のかかる研究を行わなくてもその効果は明らかです。それに対し、インフルエンザのように大部分は自然に治ってしまう病気に対する薬の効果を検討するのは、簡単ではありません。

 インフルエンザは怖い病気と刷り込まれていると、薬を飲まなくては大変だと思うのが普通でしょう。そうした状況で薬を飲んですぐによくなったりすると、これは薬の効果だと思いがちです。しかし、それは薬を飲まなかった場合と比べなければ、単なる思い込みに過ぎないかもしれないのです。

 その上、薬を飲む集団と飲まない集団が同じ集団でなければ、結果の違いが薬のおかげなのか、もともとの集団の違いなのかわからなくなります。そのためにランダム化が必要でした。さらに、薬を飲まない場合と比べるとしても、薬を飲む/飲まないということ自体が、治療に影響する面があり、薬を飲んでいる安心感だけで多少はよくなる面があったりします。なので、プラセボを使ってそうした影響を除いた上で、薬の効果を検討する必要があるのです。

 前回紹介した論文結果で「オセルタミビル」(タミフル)の効果はたかだか1日早く治すくらいに過ぎないという結果を聞いて、そんな小さな効果しかないのかと驚かれた方が多いかもしれません。しかし、そのような小さな効果しかないからこそ、プラセボを使ったランダム化比較試験を行わなければ、きちんと評価することはできないのです。

名郷直樹

名郷直樹

「武蔵国分寺公園クリニック」名誉院長、自治医大卒。東大薬学部非常勤講師、臨床研究適正評価教育機構理事。著書に「健康第一は間違っている」(筑摩選書)、「いずれくる死にそなえない」(生活の医療社)ほか多数。

関連記事