がんと向き合い生きていく

新型コロナの流行で胃がん手術を不安がる患者からの相談

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 70歳の女性からの相談です。

「胃がんと診断されました。手術は4月上旬予定と言われました。こんな新型コロナウイルスが騒がれている時に手術なんて……。延期した方がよろしいでしょうか?」

 たしかに、世の中は新型コロナウイルスで大変な騒ぎになっています。私はこう答えました。

「新型コロナがはやっていますが、コロナへの対応をしっかり行っていれば、手術の延期にはならないと思います。もっと大変な状況になれば、病院の方でも考えるでしょう。コロナがいまのような状況なら、延期の理由にはならないと思います。胃がんの進み具合にもよりますが、現在のステージは何期でしょうか? がんが比較的ゆっくりしたものか、速く進むタイプか、担当医からよく聞いて、納得して治療を受けるべきだと思います。あの時、延期しなければよかったということにならないように、患者はしっかり納得しておく必要があります」

 現在、新型コロナウイルスに対してたくさん研究が行われています。きっと数カ月後か分かりませんが、ワクチンが出来たり、治療薬も開発されるでしょう。

 そして今回の流行が収まっても、何年かたって「新新型」のウイルスが現れ、今回のワクチンや薬が効かなくなり、また人間とウイルスの闘いがさらに繰り返されるのだと思います。

 今回の新型コロナウイルスの騒ぎはまだまだ収まってはいないのですが、いろいろな反省点が見つかります。政治への不信が重なっている状況で、さらにクルーズ船への対応、PCR検査における現場からの不満などにより、国からのメッセージでは必ずしも国民の安心感は得られていません。

 日本には米国のようなCDC(疾病対策センター)がありません。CDCは時の政治とは別に、健康と安全を主導する医療専門家らで組織されます。今回のような場合、CDCセンター長の医師が起こっている感染症について国民にしっかりと説明し、そして少しでも不安を少なくしていく必要があると思います。今回の教訓として日本にもCDCが絶対に必要だと感じています。

 次に必要なことは、マスクの供給など国民の感染予防対策は当然として、それに加えて、医療者、特に病院や診療所への支援体制です。

 国民はなるべくウイルスから遠く、避けて過ごすのに対し、医療者や関係者はウイルスに向かっていかなければならないのです。こうしたウイルスと闘う医療者、関係者が少しでも安心してしっかりと働ける体制をつくる必要があります。

 現在、新型コロナウイルス感染症の患者を受け入れている病院の医師、関係者にはとても頭が下がります。医療者が完全防護服でしっかり対応したとしても、感染して命を失うかもしれません。医療者も大事な命であり、家族もいるのです。

 危険な患者を診て、感染して、もし亡くなった場合、何か補償はないのか? ということです。SARSが流行した時のある病院では、もし自分が患者を診て感染した場合、それなりの補償を受けるべく院長からの「勤務命令書」があって、それを働く後ろ盾にしたと聞きました。

 今回、中国では患者から医療者に新型コロナウイルスが感染して、医療者が亡くなったと報告されています。患者を受け入れる病院への補助、そして対応にあたった医療者、関係者には十分な補償があるべきだと思います。

 ちなみに、SARSが流行した頃、イラク戦争への自衛隊派遣が検討されました。この時、もし自衛隊員が任務中に死亡した場合、1億円払うと国は決定したと記憶しています。

 新型コロナウイルスの感染を早く沈静化するため、われわれはなるべく人混みを避け、マスクの着用、手洗いをぜひ励行しましょう。リスクの高いがん治療中の患者さんも含め、注意には注意を重ねて乗り切りましょう。

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佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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