独白 愉快な“病人”たち

「無傷で残してもらえた」渡辺美奈代さん卵巣のう腫を語る

渡辺美奈代さん
渡辺美奈代さん(C)日刊ゲンダイ

「こんな状態でよく跳びはねていましたね」

 2016年の秋、毎年開催しているバースデーライブが終わって婦人科を受診した時、先生からそう言われました。

 毎年検診に行っている病院で経過観察と言われていた「卵巣のう腫」が直径10センチぐらいまで大きくなっていたのです。普通は5センチぐらいで切除が検討されるらしいのですが、症状が何もなかったことと、検診の病院が婦人科の専門ではなかったことが重なって放置していたのです。

 結果的には、腹腔鏡下手術で切除できましたが、開腹手術でもおかしくない状況でした。卵巣のう腫は卵巣に発生する袋状の病変で、そのほとんどは良性といわれています。

 とはいえ、大きくなると他の臓器を圧迫しますし、破裂する可能性もゼロではありません。

 事の始まりは13年の定期健診でした。毎年検査を受けていて、初めて先生から「女性特有のもので、みなさんあるものなので心配はいりませんが、ちょっとあるので経過観察しましょう」と言われました。「卵巣のう腫」という言葉こそ言われなかったのですが、なんとなく察しがつきました。ただ、症状が何もなかったのであえて婦人科を受診することもありませんでした。

 経過観察が続いた3年目の秋に「ちょっと痛いな」程度の痛みがありました。それでも病院に行くほどではなかったので躊躇していました。もし、あのまま放置していたら事態は深刻化したかもしれません。

 婦人科を受診するきっかけをくれたのは、その年の春に飼い始めたワンちゃんです。正確には“彼女”の避妊手術でした。生後数カ月という子犬にメスを入れることがかわいそうで、主人と2人して泣きながら決断し、せめてなるべく傷が小さく体に負担が少ないといわれる腹腔鏡下手術がいいと思い、それができる動物病院を必死に探して連れていきました。

 その流れの中で、何を思ったか主人が「こんなかわいい子犬にメスを入れるなら僕もメスを入れるよ」と言い出して、経過観察中だった自分の背中のしこりを摘出する手術をしたのです。その先生が私のかかりつけ医でもあったので、急に私の「経過観察案件」も気になって相談し、私の検査の映像DVDをもらって、親しい婦人科に持っていきました。すると1時間も経たないうちに電話がかかってきて、「すぐ手術したほうがいい」となったのです。

 直径10センチともなると大き過ぎるので通常は開腹手術です。ただ、腹腔鏡下手術のダメージの少なさをワンちゃんの避妊手術で目の当たりにしていたので、腹腔鏡下手術を希望しました。しかも、決まっている仕事があったので“ここ”というピンポイントの日程でできる病院を探して入院・手術を敢行しました。

 卵巣の片方はなくなることを覚悟していましたが、執刀医の先生が優秀で腹腔鏡下でもキレイにのう腫だけを取り除き、卵巣は無傷で残していただきました。逆にいうと再びのう腫になる可能性もあるとのことなので、年2回、こまめに検診に通っています。

 傷口の小ささと痛みが出ないように万全を期してくれたおかげで、入院は2泊3日で済みました。退院した翌朝から息子のお弁当作りも再開しました。少しずつ家事でリハビリをした感じです。

 約1週間後にはテレビの地方ロケ、そのすぐ後には歌のステージもありましたから、開腹手術だったらとても無理だったと思います。

 もしワンちゃんの避妊手術をしなかったら、主人の背中のしこりはあのままだったでしょうし、私の卵巣の経過観察にも思いが及ばず、激しい症状が出るまで放置していたと思います。すべてはワンちゃんが来てくれたおかげで連鎖したこと。神様の“お使い”のような気がしています。

■かつては検査から逃げ回っていた

 この卵巣のう腫の手術以降、いろいろな検査を受けるようになりました。乳がんはもちろんですし、大腸や胃カメラには今や母と夫と3人で行っています。それまでは病院自体が好きではなく、検査から逃げ回っていたんです。周りに勧められても、特に大腸検査なんて「元アイドルだからそんなことできない」と言って回避していました(笑い)。

 卵巣のう腫に関しては、女性なら18歳でも発症すると聞きました。何しろ症状がないのが特徴なので検診が大切なのだと、婦人科の先生もおっしゃられています。ですから、「何かのお役に立てるなら」とSNSで病気を公表しました。すると、「美奈代さんが手術したと知って検診に行ってきました」とか「今まで勇気が出なかったけど私も行きます」という声があって、とてもうれしかった。公表してよかったと思っています。

 10代で婦人科に行くのはなかなかできないと思うので、お母さんがお嬢さんを誘って一緒に検査するのが一番いいのかな。私も引き続き定期的な検診を欠かさないようにします。

(聞き手=松永詠美子)

▽わたなべ・みなよ 1969年、愛知県生まれ。地元名古屋でタレント活動する中、1985年に「おにゃん子クラブ」のオーディションに合格して上京し、アイドルとして本格的に芸能界デビューする。86年にはソロデビューも果たし、オリコン初登場1位を5作連続で達成。89年のおニャン子クラブ解散後も、タレント、歌手、女優として幅広く活躍している。96年に結婚して2児の母となり、現在は2人の息子も芸能界デビュー。親子出演も多い。

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