歯の疑問 ずばり解決!

終末期まで自分の歯で食事を楽しみたい 60歳でできること

高齢の方こそ「最後の仕上げ治療」を
高齢の方こそ「最後の仕上げ治療」を

【Q】現在60歳。人生の最後、終末期まで自分の歯で食事を楽しみたい。今できることは何ですか

【A】 晩年に大きな治療をなるべく必要ない状態で迎えられるようにしておくことです。

 先日、70歳の患者さんに「もう年だから、痛みだけ取ってくれればいいわ」と言われました。通うのも大変だし、費用もかかってきますから、あまり大げさな治療をしてほしくない、ということだと思いますが、賛成できません。介護されるようになったら自力で歯科医院に通えませんし、在宅医療では歯科医院で受けられるような通常の治療は行えないからです。

「要介護になったら機能回復の治療ではなく現状維持の治療が中心になる」ということを忘れないでください。自力で通えるうちに口腔内を“ある程度完全な状態”にする治療をしておくべきです。そのため、僕はご高齢の患者さんにこそ最後の仕上げの治療を提案しています。

 年を重ねても幸せを感じられることは「食事」や「会話」だといいますよね。信頼できる歯科医師が相棒であれば、豊かな終末期を過ごせるはずなのです。

 この方のご質問には、まだ続きがありました。寝たきりのお母さまの介護をされているのですが、医師から「そんなに長くはないと思う」と告げられたそうです。明確な終末期の定義はありませんが、僕は「自力で食べ物をのみ込むことなどが困難で、意識の低下がある状態の少し前ではないかな」と考えています。

「介助があれば食事ができる」状態なら、まだ口の中を活動させているので口腔ケアや治療は必要です。介護されている方が口腔ケアのプロでなければ、歯磨きや虫歯のチェックなどが行き届かないことも多いでしょう。日常的なケアや相談で歯科医師や歯科衛生士の手を煩わせていいのだろうか? と言われることが多いのですが、われわれを大いに利用していただきたいと強く思います。 

 近年は訪問診療を行う歯科医院も増えてきていますから、行政に電話をして尋ねれば、居住地域で対応してくれる歯科医師を紹介してくれるはずです。

 (構成=小澤美佳)

北沢伊

北沢伊

1977年7月8日、長野県生まれ。斉藤歯科医院院長。2003年に日本大学松戸歯学部を卒業。同年から同院に勤務し、13年から院長に就任した。若手歯科医師に向けたセミナーの講師を務め後進の育成にも取り組んでいる。日本口腔インプラント学会専門医。千葉県歯科医師会所属。

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