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牛肉はマリネや砂糖の作用によって塩分を控え老化抑制できる

牛肉のミラノ風カツレツ(手前)と肉豆腐(C)日刊ゲンダイ
肉を食す(3)牛

 今回は牛のもも肉を使った2品、ミラノ風カツレツと肉豆腐です。

 パルメザンチーズの香りを生かしたミラノ風カツレツは、たたいて薄く伸ばした牛肉を少量の油で揚げ焼きにしたものです。最初にマリネするのは、肉にオリーブオイルとニンニクの風味を浸透させるため。これによって料理に使う塩分はマリネ液に加える小さじ半分の食塩とパルメザンチーズによるものだけ。わずかな塩分で十分、素材のおいしさを味わえます。仕上がりをカリッとさせるために、使用するパン粉はできるだけ細かいものが理想です。

 肉豆腐は火を通す前の肉に、三温糖(砂糖)をまぶしてください。砂糖には脱水作用があり、肉の繊維を広げてくれるからです。そうすることで肉は軟らかくなり、味も入りやすくなります。砂糖の量は大さじ1杯で十分。加える薄口醤油の量も少なくて済みます。

 牛肉にはタンパク質や鉄分が豊富に含まれています。タンパク質の良し悪しを示すアミノ酸スコアは豚肉や鶏肉同様に満点。抗酸化物質が多く含まれ、老化抑制効果が期待できます。赤血球をつくるうえで欠かせない鉄分には、貧血防止効果があります。汗や尿などによって体外に出てしまうため、意識的に摂取したいものです。

 栄養豊富な牛肉本来のうま味を、ヘルシーに召し上がってください。

■ミラノ風カツレツ

《材料》 
◎牛もも肉  厚さ1センチの約100グラムを2枚
◎ニンニクすりおろし  小さじ2分の1
◎オリーブオイル  大さじ2
◎塩  小さじ2分の1
◎白胡椒  少々
◎薄力粉  適宜
◎溶き卵  1個分
◎生パン粉(2度びき)  2分の1カップ
◎パルメザンチーズ  大さじ1
◎揚げ油  適宜
◎トマト  適宜
◎イタリアンパセリ  適宜
◎レモン  適宜

《作り方》 
 まな板に置いた牛もも肉を、肉たたきの平面でたたき(写真)、5ミリぐらいの薄さに広げる。ニンニク、オリーブオイル、塩、白胡椒を合わせ、肉を15分マリネする。

 ペーパータオルで水気を押さえ、茶こしを通して薄力粉をまぶす。肉を溶き卵にくぐらせたら、合わせた生パン粉とパルメザンチーズに押さえつけるようにして衣を付ける。

 鍋に食材の3分の1ほどが漬かるように引いた油を中温に熱し、牛肉を香ばしく揚げ焼きにする。ペーパータオルで油を切り、トマトの角切りとイタリアンパセリをあしらったら、レモンを搾っていただく。好みで粗びきの胡椒も合う。

■肉豆腐    

 木綿豆腐1丁をペーパータオルに包み、まな板とまな板で挟んだら30分くらい水切り。豆腐をひと口大に切り、耐熱容器に並べる。牛もも肉の薄切り150グラムを10センチに切り、三温糖大さじ1をまぶし、豆腐の上にのせる。

 ネギ4分の1本を斜め切りにして添え、酒4分の1カップを加えたら、蓋をして火にかける。肉の色が変わったあたりで薄口醤油大さじ1と2分の1、卵1個を加えて1分おき、蓋をして火を止め、2~3分蒸らす。

▽松田美智子(まつだ・みちこ)女子美術大学非常勤講師、日本雑穀協会理事。ホルトハウス房子に師事。総菜からもてなし料理まで、和洋中のジャンルを超えて、幅広く提案する。自身でもテーブルウエア「自在道具」シリーズをプロデュース。著書に「季節の仕事 」「調味料の効能と料理法」など。

カツレツは肉たたきの平面でたたく(C)日刊ゲンダイ
NYでは冷えたシャンパンでミラネーゼを楽しむ余裕がなくなった

 ニューヨークに来ている。こちらの研究拠点、ロックフェラー大学で客員教授をしているためだ。楽しみのひとつは、大学近くのイタリアンレストランで、冷えたフランチャコルタ(イタリアのシャンパン)を飲みながら、この店の名物、熱々に揚げられたミラノ風カツレツをいただくこと。つまり今回のメニュー、ミラネーゼである。香ばしい衣と牛肉のうま味のマリアージュは最高である。

 ところがコロナウイルス問題で、そんな優雅な時間を過ごしている余裕がなくなってしまった。米国では感染者数が急激に拡大、この原稿執筆時点で日本の倍以上の3000人を超えた。大学は全校休校を決定。すべての実験・研究はいったん中止せざるを得なくなり、講義や会議はZOOM(ネット中継システム)で行うことになった。公立の小中高もすべて休校となり、コンサート、ミュージカル、美術館・博物館も休止。レストランやバーにも営業自粛の動きが広がっている。

 生態史論的にいえば、感染症の広がりは、人間の文明活動の世界化と軌を一にしている。つまりウイルス禍は自然界からのリベンジなのだ。

 さて、ミラネーゼに似た料理に、ウインナシュニッツェルやコルドンブルーがある。これらはミラネーゼが欧州圏に伝播し、それぞれの風土に根付いたもののようだ。早く世界が正気を取り戻し、おいしい牛カツをゆっくり味わいたいものである。

▽福岡伸一(ふくおか・しんいち)1956年東京生まれ。京大卒。米ハーバード大医学部博士研究員、京大助教授などを経て青学大教授・米ロックフェラー大客員教授。「動的平衡」「芸術と科学のあいだ」「フェルメール 光の王国 」をはじめ著書多数。80万部を超えるベストセラーとなった「生物と無生物のあいだ」は、朝日新聞が識者に実施したアンケート「平成の30冊」にも選ばれた。

※この料理を「お店で出したい」という方は(froufushi@nk-gendai.co.jp)までご連絡ください。

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