がんと向き合い生きていく

今日は抗がん剤を打てるだろうか…がん患者の複雑な気持ち

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 帰りの電車は座れました。Aさんはあれこれ考えます。

「抗がん剤は打てなくて、ただすごすご帰るしかない。今日、仕事を休んだのはなんにもならなかった。元気なときならイライラ怒っていたと思うのだが、怒る気にもならない。3カ月前、CT、MRI検査で膵臓がんと診断されたけれど、俺の腹には本当に膵臓がんがあるんだろうか。今週、抗がん剤を休んでがんは進行しないのか? 抗がん剤のスケジュールは2週治療して、1週休む。これをどれだけ繰り返すのか……。『まあ、どうにでもなれ』と思っても、そうもいかない」

 近くのスーパーで、夕食用の刺し身と、明日の朝食用にパンを買いました。

 家の近くの小道まできて、2軒隣のGさんの奥さんとすれ違い、会釈だけして通り過ぎました。

「イヤな人に会ったな」

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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