がんと向き合い生きていく

今日は抗がん剤を打てるだろうか…がん患者の複雑な気持ち

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 Aさんは思いました。

■同じ病気で亡くなった隣人を思い出したくない

 2年前、Gさんは膵臓がんで亡くなったのです。自分が膵臓がんになる前は、Gさんと奥さんを気の毒にと思っていたのですが、今は奥さんにはなるべく会いたくありません。

「Gさん、あの世から俺を呼ばないでくれ」

 同じ病気で亡くなったGさんを思い出したくないのです。

 夕食のとき、Aさんは気を取り直し、おはらいのつもりで久しぶりに、おちょこに1杯だけ日本酒を温めて飲んでみました。ボーッと体が熱くなり、それ以上、飲みたいとも思いませんでした。

 夜9時を過ぎて、娘から電話がありました。

「父ちゃん、今日はどうだった? そうか、抗がん剤打てなかったのか。父ちゃんの返事は、最近『仕方ない、仕方ない』ばっかりだね」

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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