緊急企画 新型コロナを正しく恐れる

中国で正式に認められるアビガンは日本でも切り札になるか

肺炎患者を治療する武漢の医療関係者
肺炎患者を治療する武漢の医療関係者(C)新華社=共同

 新型コロナウイルス感染症(COVID―19)に対する治療の“切り札”になるのだろうか。現在、世界各国で治療薬の開発や既存薬の応用が進められているが、中でも期待されているのが抗インフルエンザウイルス薬「アビガン」(一般名ファビピラビル)だ。

 3月17日、中国の科学技術省が「新型コロナウイルスの治療に有効だ」と発表。今後、中国内の医療機関には治療薬のひとつとして推薦し、診療ガイドラインへの掲載を正式に推奨する方針を明らかにしている。

 アビガンは日本の富士フイルム富山化学が開発した薬で、日本ではインフルエンザ薬として承認されている。しかし、胎児に奇形が生じる催奇形性が動物実験で確認されていて、妊婦には使用できない。また、妊娠の可能性があれば男女とも確実な避妊が必要になることなどから、既存の薬剤が効かない新型インフルエンザなどが流行した場合に国が投与開始を検討する“特殊な薬”という位置づけで、一般には流通していない。

 有事に備えて日本では200万人分が備蓄されているが、新型コロナウイルスの治療薬として期待してもいいのか。岡山大学病院薬剤部の神崎浩孝氏は言う。

「アビガンは『核酸アナログ』と呼ばれる薬で、ウイルスが細胞にくっついてRNAを複製する際に必要な『RNAポリメラーゼ』という酵素の働きを阻害することでウイルスの増殖を抑制します。RNAウイルスは同じような過程で増殖するものが多いため、インフルエンザ以外のウイルス感染症にも効果があるのではないかと考えられているのです。以前、ギニアではエボラ出血熱の患者に投与して効果が検討されましたし、日本でもすでにマダニがウイルスを媒介するSFTS(重症熱性血小板減少症候群)に対する有効性が報告されています。今回の新型コロナウイルスに対しても実験室レベルでは阻害作用が認められています。中国での臨床試験でも、対象は少ないながらウイルスの体内存続期間が短くなったり、肺炎症状の改善が認められています。一定の効果は期待できるでしょう」

 中国で行われた臨床試験では、他にも解熱までの期間や咳が緩和する期間の短縮が確認され、「明らかな副作用も見られず安全性は高い」と報告されている。アビガンが新型コロナウイルス治療の切り札になる可能性はある。ただ、日本でもすぐに一般で投与が始まるかといえば現状では難しいと予想されている。

「現在、日本では藤田医科大学と群馬大学が新型コロナウイルスに対するアビガンの臨床研究をスタートさせています。しかし、もっと大規模な臨床試験を行って安全性がしっかり確認されてからでないと、新型コロナウイルス治療薬として一般に広く使われる可能性は低いといえます。早い段階で使われるとすれば、年齢的に催奇形性をそこまで考慮しなくてもよいうえ、重症化や死亡リスクが高い高齢者が対象になることが考えられます」(神崎浩孝氏)

 日本でアビガンを投与されている患者は80人ほどで、ウイルスが大量に増殖しきっていない段階の患者には効果がみられるといわれている。

 アビガンと同じく期待されていた抗HIV薬「カレトラ」は、臨床試験で「服用したグループも服用しなかったグループも、臨床的改善が得られるまでの時間に差はなかった」という結果が報告された。それだけに、早い段階でアビガンが新型コロナウイルス治療薬として一般にも普及することに期待したい。

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