「酔ってどう帰ってきたか記憶にない」はアルコール依存症

記憶が飛ぶなら問題
記憶が飛ぶなら問題(C)日刊ゲンダイ

 自分の酒の飲み方は、まずいんじゃないか……。うっすらそう感じている人は結構いるのでは? 「しくじらない飲み方――酒に逃げずに生きるには」(集英社)を最近出版した大森榎本クリニック精神保健福祉部長の斉藤章佳氏(精神保健福祉士・社会福祉士)によれば、自覚していないアルコール依存症やその予備群はかなり多い。

 今年に入ってから、ストロング系チューハイの危険性について警鐘を鳴らすトピックスが話題になっている。斉藤氏は、早くからストロング系チューハイの危険性を指摘していた専門家のひとりだ。

「かつては、ワンカップの日本酒や紙パックの焼酎を愛好するアルコール依存症の患者さんが多かったのですが、ここ数年はその内容が大きく変わってきています。初診でクリニックを訪れたアルコール依存症患者さんに、よく飲む酒を聞くと、ストロング系を挙げる人がほとんど。ほかのアルコール依存症治療の専門家からも、同じような話を聞きます」(斉藤氏=以下同)

 ストロング系が“飲むのに抵抗が少ない酒”であることが大きい。爽やかな印象のパッケージデザイン、プリン体や糖質ゼロ・オフといった健康を意識している人にも訴えかけるイメージ、グビグビグビッと飲める柑橘系の喉ごしの良さ……。何より値段が安い。

 しかし、アルコール度数9度のストロング系500ミリリットル1本は、テキーラのショットグラス4杯弱のアルコール量に相当する。言うまでもなくストロング系を2本、3本と日常的に飲んでいれば、やがてアルコール依存症へ至ってしまうだろう。

■楽しく飲んでも記憶が飛ぶなら問題

 そもそもアルコール依存症とは、どういう状態を指すのか?

「アルコール依存症の診断基準は多岐にわたりますが、何らかの社会的損失や身体的損失が生じる飲み方を繰り返していれば、アルコール依存症やその予備群を疑った方がいい。酒の味が好きか嫌いか、度数が高いか低いかなどは、あまり関係ありません」

 40代のAさんは食べ歩きが好きで、酒は日本酒とワインを好む。楽しい酒飲みで、仲間から愛されている。しかし、飲んでいる途中から記憶が飛んでしまうことが珍しくない。夜10時に解散したはずなのに、終電がなくなった時間帯に自宅最寄り駅とはまったく違う駅にいることに気づき、タクシーで帰宅したり、ネットカフェに泊まったりすることがしばしば。カバンやジャケット、財布をなくしたり、身に覚えのないケガを負っていることさえもある。

 そんな話も、仲間内では武勇伝として受け止められており、「問題を生じる飲み方」とは捉えていない。

 しかし、斉藤氏によれば、立派な「問題飲酒」であり、アルコール依存症が疑われる状態だ。

「ブラックアウト(飲酒による一時的な記憶喪失)がまさに問題なのです。本人は楽しく飲んでいると思っていても、記憶をなくすほど飲むというのは、その背景に飲まざるを得ない心理的要因があると考えられます。このままいけば、人間関係や健康面、金銭面、仕事面など、どこかに深刻な問題が生じてきます。一方、早く専門家が介入すれば、ほどほどのお酒を一生楽しむことも可能かもしれません」

 アルコール依存症を専門的に診る医療機関は全国的に見てもまだ少ないものの、現在は従来型の「断酒一辺倒」の治療だけではなく、「減酒」を目標とした取り組みをしているところもある。飲み始める時間を調整する、必ず食事をしながらお酒を飲む、定期的に運動をするといった日常的な工夫でも酒の摂取量を減らすことができる。

「まずいんじゃ……」と一度でも思ったことがあるなら、まず行動を。

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