遺伝子治療薬はここまで来ている

目的の遺伝子を組み込んだDNAを患部に注射し新たな血管を

写真はイメージ(提供写真)

 今回は、遺伝子の本体である核酸(DNAやRNA)そのものを薬として用いる遺伝子治療薬を取り上げます。

「コラテジェン」(一般名ベペルミノゲン ペルプラスミド)という薬は、2019年9月に発売されたばかりの「慢性動脈閉塞症による潰瘍」に対して使われる薬です。

 慢性動脈閉塞症は血管が詰まってしまう病気で、足の血の巡りが悪くなった、その中でもとりわけ「血行再建術」という血行を戻す施術もできないほど重症な患者に対し、コラテジェンを患部付近の筋肉に注射することで血管が再建するのを促進し、症状を改善させます。

 この薬は、血管新生を促す作用がある「ヒト肝細胞増殖因子(HGF)遺伝子」を含んだ「プラスミドDNA」と呼ばれる物質です。

 通常、DNAは鎖状の紐のようなものですが、プラスミドDNAは輪になっていて、その中に目的としている遺伝子を組み込むことができます。この目的遺伝子を含んだプラスミドDNAを患部に注射することで、プラスミドDNAが細胞内に取り込まれ、目的の遺伝子であるHGFを発現するのです。HGFには新しい血管をつくるのを促進する作用があるため、血管をつくることで血管が詰まって虚血になっている患部の血の巡りをよくします。

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神崎浩孝

神崎浩孝

1980年、岡山県生まれ。岡山県立岡山一宮高校、岡山大学薬学部、岡山大学大学院医歯薬学総合研究科卒。米ロサンゼルスの「Cedars-Sinai Medical Center」勤務を経て、2013年に岡山大学病院薬剤部に着任。患者の気持ちに寄り添う医療、根拠に基づく医療の推進に臨床と研究の両面からアプローチしている。

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