「とても信じられない……」
「いくらなんでも早すぎる」
日本中の誰もが知っているコメディアンの志村けんさん(享年70)が新型コロナウイルスによる肺炎で亡くなり、衝撃が走った。
■入院からわずか10日
志村さんは19日に発熱と呼吸困難の症状が表れ、20日に入院。23日に新型コロナウイルス陽性と判定され、24日から「ECMO(エクモ)」と呼ばれる人工心肺装置を使った治療を続けていた。しかし、わずか1週間ほどで帰らぬ人となった。
エクモは主に呼吸器疾患の急性悪化などの治療に使われ、肺炎が重症化して人工呼吸器でも酸素を十分に取り込むことができないケースで使用される。機能が衰えている肺の代役を担い、体外に設置した装置へ静脈につないだ管で血液を送り、酸素を加えてから再び体内に戻す。悪くなった肺を完全に休ませて、患者自身の免疫による回復を待つものだ。
これまで、エクモは新型コロナウイルスによる重症肺炎に対する有効性が報告されていて、3月11日時点の集計では新型コロナでエクモ治療を受けた患者23人のうち12人が回復し、死亡者はいなかった。
しかし、それでも志村さんは息を引き取ることになってしまった。生死を分けたものはなんだったのか。日本呼吸器学会専門医で「水谷内科呼吸器科クリニック」(東京・大泉学園)院長の水谷清二氏は言う。
「志村さんを診たわけではなく、詳細な病状もわからないので一般論になりますが、新型コロナウイルスによる重症肺炎にエクモが有効なのは確かで、志村さんにエクモ治療が行われていたのは、回復する見込みがあったからだといえます。しかし、肺の既往症があったことで、すでに肺の機能が大きく落ちていたと考えられます。報道によれば、かつての志村さんはヘビースモーカーで、4年前には肺炎で入院を経験していますし、COPD(慢性閉塞性肺疾患)だったとも言われています。COPDの患者さんは、風邪やインフルエンザといった感染症にかかると肺炎になりやすくなり、重症化リスクも上がります。症状が改善しても以前より肺の機能が低下してしまうのです」
COPDはたばこの煙などの有害物質が原因で肺が炎症を起こして呼吸がしづらくなる病気で、肺気腫と慢性気管支炎の総称だ。
肺の中にあって空気の通り道となる気管支の先にある肺胞が破壊されて組織が断裂し、酸素の取り込みと二酸化炭素の排出がスムーズにできなくなる。肺胞はいったん壊れると再生しないため、肺の機能も元通りに回復することはない。
また、肺組織に起こっている炎症によってサイトカインという物質が産生されて全身の臓器に障害を与え、虚血性心疾患や糖尿病などさまざまな病気を招く。
■肝心なのは自身の免疫力
現状では、進行のスピードを緩やかにするしか治療法がなく、日本での患者数は530万人と推定されている。
「エクモは体内のウイルスの増殖を抑えるわけではなく、装置が肺の代わりを務めている間に患者さん自身の免疫力でウイルスを退治し、肺の機能が回復するのを待つ治療です。志村さんは70歳と高齢だったうえ、肺の既往症や胃のポリープ手術で体力や免疫力が大きく落ちていたと考えられます。そのため、回復を待てるだけの時間が足りなかったのでしょう」(水谷清二氏)
独身で酒好きだった志村さんは、食生活も不規則だったというから、やはり体力も衰えていただろう。
効果的な医療機器の恩恵を受けて命を守るためには、やはり自身の体力や免疫力が重要なのだ。
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