専門医が教える パンツの中の秘密

出産女性3~4割が経験 腟から臓器がはみ出す症状と治療法

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 腟があるために起こる女性特有の病気があります。骨盤内に収まっている臓器が腟から出てきてしまう「骨盤臓器脱」です。

 はみ出してしまう臓器もさまざまで、最も頻度が多いのが膀胱(ぼうこう)が出てくる「膀胱瘤(りゅう)」。次いで直腸が出てくる「直腸瘤」、子宮が出てくる「子宮脱」の順とされています。また、過去に手術で子宮を取って残った腟壁が出てくる「腟断端脱」、子宮がないため小腸が出てくる「小腸瘤」もあります。1つの臓器が出てくることもあれば、複数の臓器が出てくることもあります。

 通常、骨盤の底には臓器を支えている筋肉や靱帯などの組織(骨盤底筋群)があり、臓器が骨盤外に出ることはありません。それが、出産を繰り返したり、年齢を重ねていくうちに骨盤底筋群の支える力が弱まり、次第に臓器が腟に下りてきてしまうのです。

 さらに危険因子としては、慢性的なせき(ぜんそくなど)や便秘(いきむ)を繰り返す、仕事で日常的に重い荷物を持つ、肥満などがあると腹圧がかかりやすいので骨盤臓器脱になりやすいといわれます。

 日本人の有病率の正確なデータはありませんが、欧米では出産を経験した女性の30~40%に何らかの骨盤臓器脱を認めるという報告があります。また年代別の有病率では、30代で22%、40代で46%、50代で55%という報告もあります。

 症状は股間の違和感から始まります。お風呂に入ったときにピンポン球のようなものが出てきた、椅子に座るとボールの上に座っているような感じがする、股に何か挟まっているような異物感がある……などです。また、膀胱が出てくれば頻尿、排尿困難、尿失禁といった症状、直腸が出てくれば排便困難の症状が表れることもあります。

 治療は「保存的治療」と「手術」があります。軽症なら骨盤底筋群を鍛える「骨盤底筋体操」が有効といわれ、理学療法士が指導してくれます。やり方はだいたいこんな感じになります。

 ①尿道・肛門・腟をギュッと締めたり、緩めたりすることを2~3回繰り返す。②次に、ゆっくりギュッと締め、3秒ほど停止する。その後、ゆっくり緩める。これを2~3回繰り返す。この引き締める時間を少しずつ延ばしていく。

 保存的治療には、腟内に挿入する「ペッサリー」や、外からクッション材で臓器を支える「フェミクッション」という器具を使った方法もあります。手術の場合は、経腟的手術と腹腔鏡手術の2種類があり、補強材のメッシュを使用するかしないかの選択になります。

尾上泰彦

尾上泰彦

性感染症専門医療機関「プライベートケアクリニック東京」院長。日大医学部卒。医学博士。日本性感染症学会(功労会員)、(財)性の健康医学財団(代議員)、厚生労働省エイズ対策研究事業「性感染症患者のHIV感染と行動のモニタリングに関する研究」共同研究者、川崎STI研究会代表世話人などを務め、日本の性感染症予防・治療を牽引している。著書も多く、近著に「性感染症 プライベートゾーンの怖い医学」(角川新書)がある。

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