進化する糖尿病治療法

巣ごもり生活で自炊が増えて結果的に健康度が上がった

臨時休業を告知する飲食店の張り紙
臨時休業を告知する飲食店の張り紙(C)日刊ゲンダイ

 週末や平日夜間の外出自粛、ナイトクラブ、バーなどの飲食店の利用自粛が要請されたことで、ストレスをため込んでいる方も少なくないでしょう。また、飲食店などを経営されている方にとっては、お客さんが激減し、しかし「来てください」と積極的に言うこともできず、経済的な不安が増している方が多いとも聞きます。早くこの状況が終息することを願います。

 しかしそんな中、「自分には、かえって良かったかもしれません」と言うのは、PR会社に勤務する50代前半のFさん。彼は食事内容の改善に関心を持っているのですが、これまで継続して規則正しい生活習慣を送ることができづらい状況でした。

 かつてFさんは、地方都市の会社に勤務していました。その時は社員食堂があり、ご飯、季節の野菜の副菜、魚や肉のメインといった栄養バランスの取れた定食を昼・夜と取ることができました。

 ちなみにFさんは独身ですので、朝は簡単にパンとコーヒーで済ませることがほとんど。

 週末は、風光明媚な土地だったこともあり、自転車でサイクリングに出掛けたり、会社の仲間とハイキングに出掛けるなど、アクティブに体を動かしていたそうです。

 35歳で現在の会社へ転職し、東京勤務に。配属された部署は残業が多く、終電近くまで会社にいることが増え、必然的に食事時間が深夜に及ぶことも増えました。深夜に開いている店といえば、焼き肉屋かラーメン屋。Fさんはお酒も大好きなので、同僚や後輩を誘って飲みにいくことも多く、週末は体の疲れを取るために寝て過ごす。体重が半年で一気に15キロ太り、健康診断の数値も悪化。もともと血糖値が高めだったのですが、年々上昇し、とうとう基準値を超えてしまいます。

 40歳で結婚。結婚相手が料理好きで、運動好き。彼女が作る和食を中心とした食事を取り、一緒にジョギングや水泳を楽しんでいるうちに、体重は元に戻りました。一時期基準値を超えた血糖値も下がり、基準値内に収まったのです。

■作り置きの習慣を身に付けるチャンスと捉える

 ところが3年前、離婚。同じ頃、会社が引っ越しました。新しい職場がある地域は飲食店が少なく、あるのはチェーン展開している牛丼屋やカレー屋、ファストフード店、立ち食いそば屋。ほかの選択肢となると、弁当屋しかない。牛丼にしても、カレーにしても、弁当にしても、もったいなくて完食してしまう。すると、どうしても塩分や脂肪が多い食事になる。50歳を越えているのも影響し、体重が増えるばかりか、血糖値と血圧がじわじわ上昇し、健康診断のたびに「生活習慣を改善しないと!」と言われるようになりました。

「本当は定食を食べたくても、今の職場環境では難しい。料理は好きなんですが、疲れて帰ってきて自宅で作るのも面倒。夜も外食かスーパーの総菜かになってしまう」

 健康面の心配はあるけど、打つ手がないと思っていたFさん。しかし、新型コロナウイルス対策で会社が3月半ばからリモートワークになりました。週1回出社する時も、電車のピーク時を避けて昼すぎに家を出るように。そして、不要不急の会食は禁止という会社からの通達。それらによって、Fさんは1日3回、家で食事をすることが普通になりました。

 Fさんは料理の経験はそれほどないものの、凝り性なので、自宅にいることを利用して、初心者向けの料理本を何冊か購入し、夜や週末に料理にチャレンジしてみたそうです。また、さすがに昼は仕事があるので料理に時間はかけられないけれど、まとめて炊いて冷凍しておいたご飯、納豆、たくさん作った豚汁などで食べれば、バランスよく栄養分を取れる。料理本にあったように、ダシを利かせ、味付けも薄めにするようにしました。 今は健康診断を受けに行ける状況ではないので血糖値や血圧などがどう変わっているか分からない。けれど、Fさんは“数値が下がっているような手ごたえ”を感じているそうです。

「料理を作る習慣、作り置きしておく習慣を今のうちに身に付ければ、リモートワークが終わって以前の生活に戻っても、栄養バランスの取れた食生活を送れると思います」(Fさん)

 暗い話ばかりですがFさんのように前向きに対応するのもいいですね。

坂本昌也

坂本昌也

専門は糖尿病治療と心血管内分泌学。1970年、東京都港区生まれ。東京慈恵会医科大学卒。東京大学、千葉大学で心臓の研究を経て、現在では糖尿病患者の予防医学の観点から臨床・基礎研究を続けている。日本糖尿病学会、日本高血圧学会、日本内分泌学会の専門医・指導医・評議員を務める。

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