がんと向き合い生きていく

ふさぎ込んでいた乳がん患者を前向きにさせた実家での出来事

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

「この腕を清めてください!」

 近くの山寺から町一面を見渡した後、山を下って帰りました。古い家に戻って仏間で一息つくと、欄間に掲げてある祖父、祖母、父、母の大きな写真が目に入ります。

 おじいさんは川で泳ぎを教えてくれた。おばあさんは、ままごとで遊んでくれた。お父さんは私がいつも徒競走でビリになっても、親が参加する競技に出て1等になって私に賞品をくれた。お母さんはいつもお弁当をつくってくれた……。

「そうか、ご先祖さまがいて、そして私がいるんだ。みんながいてくれたから私がいて、そしてこれからの私もあるんだ」

 そう思っていたら、写真のみんなが「あなたを見守っていますよ」と言ってくれているような気がしました。

 4歳になる甥が「おばちゃーん、ゴハンですよー」と大きな声で叫ぶのが聞こえました。「はーい」と答えながら、Sさんは東京に戻ったら担当医に「いつ乳房再建の手術をするか」を相談しようと思いました。

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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