Dr.中川 がんサバイバーの知恵

志村けんさんは1日3箱 喫煙者は新型コロナ死亡リスクが3倍

志村けんさん
志村けんさん(C)日刊ゲンダイ

 コメディアンの志村けんさん(享年70)の命を奪ったのは、新型コロナウイルスでした。テレビや雑誌では、志村さんをはじめドリフターズなどの追悼企画も相次いでいます。その報道に触れ、改めて人気のすごさを思い知らされました。

 そんな志村さんの死をめぐり、見過ごせないのがたばこの影響です。たばこというと、がんや脳卒中、心筋梗塞などのリスクとして知られますが、新型コロナの重大リスクであることもわかってきました。今回はがんを離れて、たばこと新型コロナの影響について考えます。

 その根拠となるのが、2月に米医学誌ニューイングランドジャーナルに発表された論文です。中国の感染者1099人を調査。そのうち重症化したのは173人で、喫煙者が16.9%、以前に喫煙していたのが5.2%でした。

 こうした人と非喫煙者を比較すると、重症化リスクは約1.7倍になります。人工呼吸器や集中治療室を必要としたり、亡くなったりするリスクは約3.2倍に上りました。

 志村さんは2016年に肺炎を患うまで多いときで1日に3箱を吸うヘビースモーカーだったと報じられています。当時66歳。仮に少なく見積もって、20歳から46年間、40本を吸い続けたとすると、1日の本数と喫煙年数の積で示される喫煙指数は1840。700超でがんやCOPD(慢性閉塞性肺疾患)のリスクが高くなりますから、志村さんがCOPDだったとしても不思議ではありません。

 喫煙者には、ある受容体が発現することがわかっています。その状態で新型コロナに感染すると、ウイルスが肺の細胞に侵入し、攻撃にさらされやすくなると考えられています。

■50歳で禁煙すれば寿命は6年延びる

 COPDの人は、新型コロナ以外のウイルスや細菌の肺炎を起こしやすく、重症化しやすい。しかも一度発症すると、再び肺炎になりやすいこともわかっています。こうしたことが重なって、志村さんは負の連鎖により、命を失ったと思えてならないのです。

 スペインやイタリアなど欧州でも、新型コロナによる死者は1万人を超えています。その欧州のECDC(欧州疾病予防管理センター)も先月27日、「喫煙者が新型コロナウイルスに感染すると、重症化リスクが高い」と発表。その1週間前には、WHOも同様の警告を発しています。たばこが新型コロナの重症化リスクであることは、世界の共通認識といっていいでしょう。

 いま喫煙している人はぜひこれを機に禁煙してください。50歳で禁煙すると、そのまま喫煙を続けるより6年、60歳では同3年寿命が延びるといわれます。もっと早く35~40歳で禁煙すれば、喫煙前の余命を取り戻すことができるのです。

 今月から飲食店は原則禁煙ですが、既存店で客席面積100平方メートル以下などの条件を満たせば喫煙できます。その条件を新型コロナの視点でみると、密閉、密集、密接と重なり、リスクを助長することに。その点からも禁煙がベターです。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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