がんと向き合い生きていく

介護の現場でも新型コロナによる混乱と深刻な状況が続いている

佐々木常雄氏
佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 新型コロナウイルスの感染拡大で、病院外来には発熱、咳、味やにおいがしないなどの症状を訴える患者がたくさん訪れるため、「発熱外来を別にした」、あるいは「再診の方は電話診療での処方も可能」となったところもあります。そんな中、外来で抗がん剤治療を受けている患者は不安を募らせながら点滴治療を受けているといいます。

 入院では、コロナ病棟は重症者でいっぱい。院内感染に細心の注意を払い、人工呼吸器の増設・整備などが進められていますが、医療者はマスクや予防衣の不足によって自分が感染しているかもしれない不安を感じています。それでも検査はしてもらえない……そんな現場の混乱が毎日のように報道されています。

 多くのクリニックでも不安が増しています。PCR検査をすぐにやってもらえない、救急車では搬送患者がコロナ保菌者かどうか分からないことから受け入れてくれる病院を探すのに大変で、患者はたらい回しにあっているといいます。

 しかし、介護現場、訪問系サービスの大変さについてはあまり語られていません。そうした状況の中、4月10日に「NPO法人暮らしネット・えん」らの方々から、安倍首相あてに「訪問系サービスにおける新型コロナウイルス対策の要望書」が提出されました。その一部を紹介します。

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 現在、特別養護老人ホームやデイサービス(通所介護)などの介護現場をはじめ、ケアマネジャーや居宅サービスの利用者にも感染が広がっています。

 感染による自宅待機、濃厚接触など感染の疑いがある利用者(家族を含む)への対応にも苦慮しています。利用者の食事や排泄、身体の清潔など日常生活を維持し、命と健康を守るために、ホームヘルパーの訪問は最後の砦というべきであるにも関わらず、事業所への行政のバックアップはあまりに貧弱と言わざるをえません。

 厚生労働省は3月6日、事務連絡『社会福祉施設等における感染拡大防止のための留意点について』で「訪問介護事業所等における対応」を示しました。そこでは感染が疑われる者や濃厚接触が疑われる利用者に(保健所と相談した上で)サービスを提供する場合、感染防止策を徹底することが挙げられています。しかし、訪問系サービスは、医療職が常時配置されている施設サービスと介護を行う環境・条件が決定的に異なります。しかし、事務連絡では、ホームヘルパーが単独で介護する訪問系サービスに特化した配慮がなされていません。

■分からないことが多い現状が不安を募らせる

 また、入手困難な使い捨てマスク、消毒液や防護衣等の準備など、費用負担を強いるのでしょうか。私たちは強い違和感を抱いています。訪問系サービスは弱小事業所が多く、近年は閉鎖・倒産が相次ぐ状況にあります。それでも緊急事態の中で、地域で暮らす要介護高齢者を感染から守り、生活を保つために最前線で努力しています。

 訪問系サービスの事業所とホームヘルパーに、具体的できめ細かな対応策を求めます。

 要望1 訪問系サービス事業所へのきめ細かい感染予防、感染対策の周知徹底を求めます。

 要望2 訪問系サービス事業所と介護労働者が新型コロナウイルス蔓延時に、できるだけ安心して働き、休める環境整備を求めます。

 要望3 ホームヘルパーの緊急増員を求めます。

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 日本では、「検査は人手も時間もかかって大変」「精度の問題がある」「たくさん検査をすると医療崩壊が起こる」などと言って、PCR検査の対象を最初から少なく絞りました。韓国のようにたくさんの市民を対象に検査を行っておけば、このような現場の不安は少なく、安心して介護ができたはずなのです。

 PCR検査の陽性者の数だけを出すのではなく、いまからでも「どれだけ検査して、どれだけ陽性だったのか」といった情報ぐらいは開示すべきです。分からないことが多い現状が、不安をいっそう募らせるのです。

 介護現場の大変な状況を政府は知ってほしい。今回の要望書は、当然の、当然の要望だと思うのです。

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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