緊急企画 新型コロナを正しく恐れる

回復率は約60% 重症者の最後の砦「ECMO」の仕組みと限界

重症の肺炎患者の治療に使われるECMO(エクモ)/
重症の肺炎患者の治療に使われるECMO(エクモ)/(C)共同通信社

 新型コロナウイルス感染症が怖いのは肺炎を起こすことだ。しかも、高齢者や糖尿病、高血圧などの基礎疾患を持つ人は重症化しやすいという。そんな時、最後の砦と期待されているのが「体外式膜型人工肺(ECMO)」だ。弘邦医院(東京・葛西)の林雅之院長が言う。

「重症の呼吸器不全になった患者はまず人工呼吸器による治療を行います。機械で酸素や圧縮空気を直接肺に送り込むやり方です。それでも呼吸の維持が難しいと判断されると、ECMOが使われます。首と太ももの付け根の静脈にカテーテルを差し込み、ポンプでいったん血液を体の外に出して人工肺で酸素と二酸化炭素のガス交換をし、再び血液を体に戻すのです。ただし、自律的な呼吸をしたままこの装置を使用すると、肺に新たな障害が加わることになりかねません。そのため、装置の稼働中は鎮静鎮痛剤で肺の呼吸機能を抑制しなければなりません」

 もちろん、治療で肺の機能が回復すれば人工呼吸器に戻ることができる。使用期間は1年近くに及ぶこともあるが、予後が良いとされるのは1~2週間だといわれる。

 気になる効果だが、首都圏の大学病院の関係者は「肺が柔軟性を失い回復が難しいだろうと考えられていた患者さんが、1カ月を超えるECMO治療で回復した」との感想をもらしている。ECMOを使った治療は日本集中治療医学会が4月12日時点で集計した数字がある。75人の患者(男性85%、女性15%)に実施され、ECMO治療が終了した36人中、回復した人は25人(69%)、死亡11人(31%)となっている。治療継続中の人は39人だ。

 現在、ECMOの世界の標準的な成績は離脱率69%、救命率60%といわれているから、ほぼ世界水準に達しているということになる。

■65~70歳以上は一般的に適応外

「ただし気を付けなければならないのは、これはECMOを適切に運用できる経験豊富な医師や、日常的に訓練された看護師、臨床工学技士などのスタッフがいてこそ実現できる数字だということです。現在の日本でこの数字を実現できる医療機関は全国で数カ所といわれています」

 しかも、すべての重症患者がECMOの適応になるわけではない。

「日本集中治療医学会など7学会、1研究会が先月24日に公表した『COVID―19 急性呼吸不全への人工呼吸とECMO基本的注意事項』によると、年齢が65~70歳以上は予後が悪いので、一般的には適応外となっています。また、末期がん、慢性心不全、慢性呼吸不全、その他、重度の慢性臓器不全の患者さんは予後が悪いので、適応には慎重さが求められます。また、人工呼吸器を7日間以上行った後にECMOを使っても予後が悪い、とされています」

 もちろん新型コロナウイルス感染症は重症化の速度が速く、タイミングを逸すると本来の効果が期待できない。そのタイミングを見極められる医師がいなければ、好成績を望めないのは言うまでもない。

 ECMOなどを使える専門スタッフを集めて集中治療センターをつくるなど、医療資源を効率的に使う体制を、早急に構築することが必要ではないか。

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