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ホタテに含まれる豊富なタウリンには生活習慣病改善作用が

ホタテのカルパッチョ(手前)と野沢菜漬けとのバター炒め(C)日刊ゲンダイ
旬の恵みを味わう(4)ホタテ

 ホタテの旬は貝柱がどんどん大きくなる夏にかけてです。殻付きのホタテを使う場合は、できれば生きているものを選ぶことです。殻が少し開いていて、触ると素早く閉じるものであれば大丈夫です。隙間からのぞけるなら、できるだけ貝柱が大きいものを選びます。魚屋さんに頼めば殻からきれいに貝柱を外してもらえます。

 高タンパクで低カロリー。脂肪分の少ない良質なタンパク質に加えてタウリン、亜鉛、鉄分なども豊富です。中でも心臓病、高血圧、生活習慣病の改善作用のあるタウリンは100グラム当たり1グラムも含まれていますし、亜鉛には老化防止作用があります。

 今回は新鮮な刺し身用のホタテを使ったカルパッチョと、野沢菜漬けとのバター炒めの2品です。炒め物の方は冷凍でも構いません。冷凍してあるものはペーパータオルを敷いたトレーの上に置き、冷蔵庫で時間をかけて解凍することです。ゆっくり解凍した方が豊富な栄養分やうま味成分を逃さないからです。

 カルパッチョの付け合わせに使う春菊は抗酸化作用のあるβカロテンが豊富ですし、なにより鮮烈な香りが生のホタテのうま味や甘味を引き立ててくれます。

 今回はアンチョビーとレモン汁を使ったドレッシングを合わせましたけど、ドレッシングを柚子胡椒やわさびベースにしてもよく合います。付け合わせを新玉ネギのスライスやトマトに替えてもおいしく召し上がれます。

 もう一品のバター炒めは、野沢菜漬けと合わせます。野沢菜漬けは乳酸菌を利用した発酵食品ですから、免疫力アップが期待できます。野沢菜漬けを他の青菜の漬物、例えば高菜漬けにしても合います。古漬けを使う場合は水にさらして水気を絞ってから炒めます。

■カルパッチョ

《材料》 
◎ホタテ貝刺し身用  4粒
◎塩  ほんの少し+小さじ4分の1
◎春菊  4分の1束(葉を軸から外して一口大にちぎる)
◎オリーブオイル  大さじ3
◎アンチョビーのみじん切り  大さじ2分の1
◎レモン汁  大さじ1と2分の1
◎白胡椒  少々

《作り方》 
 ホタテ貝の脇についている柱を下にして一粒を4枚ぐらいに薄く切り(写真)、両面に塩をほんの少し振り、冷蔵庫で15分寝かせる。器に春菊の葉を敷き、ホタテの薄切りを並べたら、オリーブオイル、アンチョビー、レモン汁、塩(小さじ4分の1)、白胡椒をよく交ぜて、全体に回しかける。

■野沢菜漬けとのバター炒め 

 ホタテ貝(冷凍可=一粒を4分の1~6分の1の大きさに切る)4粒に白ワイン大さじ1をかけておく。野沢菜漬けの水気を絞って、長さ3センチに切る(2分の1カップ分)。にんにくスライス小さじ1~2とバター大さじ1をフライパンに入れて中火にかけ、野沢菜漬け、ホタテ貝を加えてさっと炒める。味をみて塩白胡椒で調味する。

一粒を4枚ぐらいに切る(C)日刊ゲンダイ
良質のアミノ酸と糖質は免疫システムの成分である抗体の原料

 ホタテ、と私たちが一般的に呼んでいる食材はホタテ貝の貝柱のこと。英語ではスキャロップである。

 貝柱は二枚貝の殻を閉じるための強力な筋肉の束である。なので縦向きに筋肉繊維が走っている。食べるとサクサクほぐれるような食感があるのはそのため。そしてホタテの貝柱が甘くておいしいのにも生物学的な理由がある。筋肉はすばやく動かすために大量のエネルギーがいる。そのため貝柱にはエネルギー源としてたくさんの糖質(グリコーゲン)が含まれている。グリコーゲンは、キャラメルの名前にあるとおり、ブドウ糖の連結体である。なので食べると甘い。筋肉はタンパク質なので、うま味アミノ酸の宝庫でもある。

 それから貝柱にはコハク酸という特殊な酸が含まれていて、これが貝特有の香りとうま味を発揮する。どうしてホタテが免疫力アップ食材かと問われると、ちょっと論理に飛躍があるが、良質のアミノ酸と糖質が回り回って、免疫システムの大切な成分である抗体の生産のための原料となるからだ。

 ちなみにコロナウイルスに感染すると、たとえ病気の症状が出なくても、体内に抗コロナウイルス抗体が作られる。これはコロナウイルスだけに結合してウイルスを無力化してくれるミサイルのようなもの。血液を採取して、コロナウイルスのタンパク質サンプル(これを抗原と呼ぶ)に反応させると抗体の有無がわかる。このテストをして、抗体をすでに持っている人には許可証を与えて、経済活動を再開してもらえばいい、という考え方がある。免疫ライセンスである。

▽松田美智子(まつだ・みちこ)女子美術大学非常勤講師、日本雑穀協会理事。ホルトハウス房子に師事。総菜からもてなし料理まで、和洋中のジャンルを超えて、幅広く提案する。自身でもテーブルウエア「自在道具」シリーズをプロデュース。著書に「季節の仕事 」「調味料の効能と料理法」など。

▽福岡伸一(ふくおか・しんいち)1956年東京生まれ。京大卒。米ハーバード大医学部博士研究員、京大助教授などを経て青学大教授・米ロックフェラー大客員教授。「動的平衡」「芸術と科学のあいだ」「フェルメール 光の王国 」をはじめ著書多数。80万部を超えるベストセラーとなった「生物と無生物のあいだ」は、朝日新聞が識者に実施したアンケート「平成の30冊」にも選ばれた。

※この料理を「お店で出したい」という方は(froufushi@nk-gendai.co.jp)までご連絡ください。

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