新型コロナは「第2のエイズウイルス」なのか 衝撃の論文が

世界中で猛威を振るう新型コロナウイルス
世界中で猛威を振るう新型コロナウイルス(米国立アレルギー感染症研究所提供)

 新型コロナウイルスは部分的にエイズウイルスに似ているといわれているが、あくまで構造上のものであった。しかし、現実的な可能性を物語る論文が発表され、世界中の医療関係者に衝撃を与えている。「Cellular and Molecular Immunology」に今月掲載された論文で、執筆者は中国・上海在住の研究者と米国の研究者だ。一体どんな内容なのか? 「弘邦医院」(東京・葛西)の林雅之院長に聞いた。

 論文によると、新型コロナウイルスは、リンパ球の一種で細胞免疫をつかさどるT細胞に感染するという。事実、新型コロナ感染症の重症患者はリンパ球が減ることが確認されている。リンパ球がほとんどなくなり、免疫システムがかなり破壊されている死亡例も報告しているのだ。これは新型コロナウイルスがエイズを発症させるHIV免疫不全ウイルスのように免疫システムを破壊しうる可能性を物語っている。

「T細胞とは免疫の司令官のような役割をする細胞です。ウイルスが体内に侵入すると、まず体中をパトロールしている食細胞・マクロファージや樹状細胞がウイルスの情報を集めて司令官役のT細胞に報告します。情報を受け取ったT細胞は、インターフェロンやサイトカインを分泌して“殺し屋”のキラーT細胞を活性化させ、ウイルスに感染した細胞を探して破壊するよう促すのです」

 その一方でT細胞はB細胞に抗体を作るように指示。指示を受けたB細胞は、そのウイルスに対抗する大量の抗体を作り、この抗体もウイルスの細胞への感染を防ぐ。

 ところが、エイズウイルスは免疫の司令官役のT細胞やお掃除・情報屋のマクロファージなどの免疫細胞に感染し殺してしまう。免疫を失った体はさまざまなウイルスや細菌に侵されて死んでしまうのだ。新型コロナウイルスはエイズウイルスと同じように免疫細胞に感染するというのだ。

「新型コロナウイルス感染症では、肺炎のほかに下痢、脳炎、心筋炎、多臓器不全など全身の臓器に感染症が見られますが、重症の人ではリンパ球の減少もよく見られます。そこで新型コロナウイルスに対するT細胞の感受性試験を行ったところ、新型コロナは遺伝子的に8割同じである重症急性呼吸器症候群(SARS)よりも有意に感受性が高いことがわかったというのです」

■リンパ球に感染し免疫を破壊

 SARSと新型コロナは体内の細胞に侵入するための入り口としてACE2タンパクを利用することがわかっている。ヒトT細胞にはそれがほとんどないとされているので、新型コロナウイルスがACE2タンパク以外の入り口を利用して細胞内に侵入するのは大いに考えられることだ。

「これは衝撃的な内容です。すでに今年2月に中国の免疫研究の研究者が高齢者や集中治療室が必要な重症の新型コロナウイルスの患者でT細胞(リンパ球)の数が大幅に減少していることを報告しています。重症化すると殺菌作用のある好中球が増えてリンパ球が減ることは世界中の患者で確認されています」

 中国では新型コロナウイルス感染症で亡くなった20人以上の遺体を解剖して、ウイルスの感染により免疫組織が完全に破壊されていたことが確認されたという報道もあるらしい。

「もちろん、重症になる主たる原因は免疫反応の暴走であるサイトカインストーム(インターロイキン6などのサイトカインが大量に放出され、強い炎症が起こる)に間違いありません。ただ、リンパ球減少の原因のひとつにウイルスのリンパ球への感染による可能性が出てきたということです」

 この仕組みのナゾを解くカギはウイルスの突起を形成しているスパイクタンパク質(Sタンパク質)かもしれない。感染先の細胞表面にある受容体と結合してウイルス外膜と細胞膜の融合を媒介する役割がある。ほんの少しこの構成を変えるだけで働きが大きく変わることが知られている。

 実際、長年動物ウイルスを研究している学者に聞くと、動物によっては感染するウイルスのSタンパク質の一部欠損や構造変化により、肝炎疾患が脳炎に変化したり、腸炎疾患が呼吸器疾患に変化したりする例が報告されているという。つまり、新型コロナウイルスのSタンパク質の構造が少し変わるだけでヒトのリンパ球に感染できるようになり、エイズと同じように免疫不全症候群を発症させる可能性があるという話は決して荒唐無稽ではないのだ。

「ただし、リンパ球減少は重症患者に起きていることであって、HIVのようにこの免疫細胞への影響力が簡単に他の人に感染したという報告はありません。新型コロナの感染はあくまでも呼吸器を介したものであり、現時点では心配する必要はないと考えます」

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