人生100年時代の歩き方

“ちょいぽちゃ”体型は肺炎リスクが最も低い 専門家が提言

意識してたくさん

 大型連休も自宅で過ごしている人は多い。新型コロナウイルスについて特効薬もワクチンもないとなると、いざ感染しても生き残れるだけの体力がモノをいう。その源になるのが栄養だ。何を食べればいいのか?

 女子栄養大学副学長で、同大栄養科学研究所の香川靖雄教授(医学博士)に聞いた。

 まずは新型コロナウイルス感染による症状をおさらいしておこう。

 最初こそ普通の風邪と似た鼻水や咳、軽い発熱の症状から始まるが、風邪が一般的に2~3日で治るのに対し、新型コロナは4~5日と長期化する傾向がある。さらに重症化すると肺炎を引き起こす。つまり体力を消耗する期間が長く続くということだ。それを踏まえて香川教授はこう言う。

「感染後に生死を分けるのは十分な抗体が出来るまでの1~3週間、肺炎と高熱に耐え得る〈感染防御能〉があるかどうかです。そのためには正しく十分な栄養を取ることが肝心です」

 病院なら専門の栄養士が栄養管理をしてくれるだろうが、自宅やホテルで療養となると、自己管理しなくてはならない。正しく十分な栄養とはどういうものか。ポイントは〈タンパク質〉と〈糖質〉だ。

味噌、チーズ、サバ缶で(C)日刊ゲンダイ
味噌、チーズ、魚のDHAがお薦め

 まずはタンパク質。実は血液中のタンパク質が少ない低タンパク血症(アルブミン3・5グラム/デシリットル未満)だと、肺炎罹患率が11~22倍も高くなることが分かっている。中国・武漢の肺炎死亡者にも同様のケースが見られたそうだ。だったら肉をガンガン食べればいい? 若者や働き盛りならそうだろう。

 しかし、高齢者は萎縮性胃炎などが原因で、タンパク質を消化吸収する能力が低下している。栄養管理が行き届いているはずの高齢者施設でも、40%の人が慢性的なタンパク質不足になっているという。

 そこで香川教授はこんな食材をお薦めする。

「『チーズ』や『味噌』といった発酵食品です。微生物がタンパク質を分解して、あらかじめ消化吸収がしやすい“半消化状態”にしてくれているからです」

 それでも不安な場合は、食事の後に消化剤を飲むのもいいそうだ。

 続いて「糖質」。甘いものなどだ。これは肺炎で高熱になるとエネルギー消費量が増えるので、それを補うため。

 実際、低血糖(72ミリグラム/デシリットル未満)の場合は肺炎死亡率が3・2倍にもなるという。それを防ぐために、いざ肺炎になったら糖質補給が大事なのだ。

 ちなみに体温は1度上昇すると13%代謝が増える。発熱時はエネルギー消費量が増え、体力を奪われてしまうわけだ。

「肺炎による入院後の死亡率と体格との関係」/(C)日刊ゲンダイ
死亡率は痩せた人の2.4分の1

 とはいえ、いざ感染してからでは遅い。倦怠感や発熱で「食欲が減る」からだ。だが、腹が減っては戦が出来ない。籠城戦では十分な兵糧が必要なように、普段からしっかり食べ、あらかじめ十分な栄養を体に蓄積しておく必要がある。

 それを裏付けるデータがある。人間の肥満度を表す体格指数にBMIがあるが、これが18・5~24・9、いわゆる〈標準〉体形の人の肺炎死亡率を1とした場合、その相対的な死亡率は18・5未満の〈痩せ〉は1・93倍と増え、25以上〈肥満〉は逆に0・79と下がるという。つまり、肺炎リスクに関しては、太った人の方が痩せた人より2・4分の1も死亡率が低いのだ。

 もちろん、太り過ぎ(BMI30以上の高度肥満)は糖尿病や高血圧症になりやすいため、新型コロナの死亡のリスクを高めてしまう。米国の死亡数が多いのは、BMI30を超える高度肥満の割合の多さが男女とも世界トップクラスというのと無縁ではないだろう。

 なので体形に限れば、BMI25~30の〈肥満1度〉、つまり「ぽっちゃり」が、最も新型コロナウイルスに対して〈防御能〉が高いということになる。

 世界でいち早く終息宣言を出した中国でも、都市封鎖や徹底的な外出制限と同時に国民に対する栄養指導が行われているという。

 香川教授が入手した中国当局の指導書には、一般人と回復期の患者向けの栄養食として〈米・小麦粉等を毎日250~400グラム〉〈赤身の肉、魚などの良質なタンパク質を毎日150~200グラム〉〈野菜を毎日500グラム以上〉〈果物を毎日200~350グラム〉が推奨されている。

 相当な量だが種類も豊富。つまりは高エネルギー・高タンパク・高ビタミン食ということだ。

感染拡大に備え充分な栄養を(C)日刊ゲンダイ
「今は非常時。食べる量を増やすべき」

 ただし、むやみに食べればいいというわけではない。米国の死亡者数の多くを占めるのが黒人だが、その原因のひとつにジャンクフードの食べ過ぎによる肥満と、それに伴う糖尿病などの持病が考えられている。

 やはり和食などの健康食がベターのようだ。中でも特に肺炎を防ぐ効果が期待できる食材があると香川教授はいう。

「それは魚です。魚にはDHAが多く含まれていますが、これをもとに体内で〈プロテクチンD1〉という物質が作られます。プロテクチンには抗炎症作用があり、肺炎による肺組織の傷害を防いでくれます」

 要するに、DHAは肺炎予防に効果が期待できるということだ。DHAが特に多く含まれるのはサンマやサバなどの青魚。近頃は日本人の間でも魚食が減っているが、毎日の食事に意識して魚のメニューを取り入れるか、難しければサプリメントなどで補うといいだろう。

「食べる量が少ない方が長生きするという説もありますが、それは平和な時の話。今は非常事態です。感染拡大に備え、食事を減らすダイエットや低糖質食などはすぐにやめるべきです」

 外出自粛で体重増を気にしている人も多いと思うが、ダイエットは非常事態が終息してからでいい。今はマスク、手洗い、栄養、そして適度な運動だ。

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