Dr.中川 がんサバイバーの知恵

検診も手術も続々延期で…患者が絶対に押さえたい行動基準

毎年受けることが大事ですが…
毎年受けることが大事ですが…

 すい臓がんは、がんの中でも難治がんといわれます。そんな厄介ながんを克服したのが、元サッカー伊代表のジャンルカ・ビアリ(55)です。17カ月に及ぶ化学療法ですい臓がんを克服したと報じられています。

 サッカー雑誌の報道では、2回の検査が陰性とありました。「陰性」の意味を解釈すると、恐らくゲムシタビンという抗がん剤が効いて、腫瘍マーカーが正常化した、あるいはCTなどの画像から影が消えたということでしょう。その使用条件は切除不能の進行がんだけに、再発の可能性は否定できません。

 一方、私の知人は3年前に人間ドックですい臓がんを早期発見。手術で切除しました。これは根治といってよく、再発リスクは少ない。すい臓がんもほかのがんと同じように早期発見が大切ですが、今、新型コロナウイルス問題で早期発見の体制が崩れています。

 厚労省の保険局や健康局、労働基準局がそれぞれの立場で健診について通知していて、最も踏み込んでいるのが保険局です。緊急事態宣言が全国に拡大されたことを受けた4月17日の通知では、「特定健康診査等については、少なくとも緊急事態宣言の期間において、実施を控えること」とあります。

 この通知にはQ&Aも作られていて、それを読み解くと、緊急事態宣言の期間後も控えてもらいたいという内容になっていることから、いわゆるメタボ健診の特定健診のみならず、健保組合の補助で行う人間ドックやがん検診も実施できない方向に議論が進んでいるのです。

 読者の方も、会社などから各種健診の延期を伝えられたかもしれません。実は私も、その被害をこうむった一人です。毎年この時期に大腸がんの早期発見のため、大腸内視鏡検査を受けていますが、キャンセルせざるを得なくなりました。そんなことが全国で起こっているのです。

 感染がピークを越えると、今度は健診ラッシュが起こります。そのとき、なるべく早いうちに予約を取ることが大切です。

 毎年きちんと受けてきたのに、「今年はいいか」と2年空けるのはよくありません。

 この原稿を書いていると、がん研有明病院のニュースが飛び込んできました。院内感染の拡大で医師や看護師が自宅待機になり、がんの手術を当面8割減らすというのです。発見が遅れた上、手術の順番待ちがあると、救える命が救えなくなる恐れがあります。

 この局面では、早期発見と同時に治療法の選択も重要です。米国は手術が半減する一方、放射線治療はあまり減っていません。今後、日本でも放射線治療が見直されるでしょう。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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