院内感染42人…都立墨東病院の今「医療崩壊は信頼の崩壊」

うつ病になるスタッフも…(都立墨東病院)
うつ病になるスタッフも…(都立墨東病院)/(C)日刊ゲンダイ

 新型コロナウイルス感染症の患者急増に伴い、毎日のように全国各地の病院で院内感染が発生している。病院内では、いま何が起きているのか? 4月27日までに医師や看護師、医療スタッフや患者など42人の感染者が判明した都立墨東病院の関係者が重い口を開いた。

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「医療崩壊という言葉は知っていましたが、自分がその渦に巻き込まれるなんて思ってもみませんでした。築き上げた診療体制、人間関係もズタズタで、医療崩壊とは信頼の崩壊だと知りました」

 東京都全域を対象にした広域基幹病院である墨東病院は地域連携の要として多くの治療困難な患者を引き受けてきた。しかも第一種感染症指定医療機関およびHIV感染症の拠点病院でもある。

「医師も看護師も医療スタッフも普段から感染リスクを感じつつ、それに見合う収入を得ることなく給与や賞与カットにも耐えて頑張ってきました。にもかかわらずコロナ差別にさらされ、日常生活すらままならない。怒りの矛先がわかりません」

 感染が広がるにつれ院内はイライラが募ってきたという。

「看護師さんはコロナの患者さんに接するときは全身を覆う防護服に防護グラス、マスクに手袋をして対応しますが、そうでない患者さんの場合は、それを脱いで通常のユニホームに感染防止用のエプロン、マスクを着用します。そのため、通常以上に時間がかかります。入院患者さんから『ナースコールの反応が遅い』との文句が増えたとベテランの看護師さんがこぼしていました」

 入院患者への面会は原則禁止。家族といえども医師の緊急の呼び出しや症状の急変以外に患者に会うことはできない。患者同士の交流も以前に比べれば制限されているため、いきおい看護師など医療スタッフに不満が向かう。

「(医療スタッフの方の立場は)わかっているんですけど、一言いわせてください」と前置きして文句を言う患者もいるという。

「ただ、入院される患者さんは、寂しそうですね。入院前に『病状が急変しても、必ずしも面会がかなわないかもしれない』旨の話をされるケースもあるようで、入院時に今生の別れだと家族と泣いておられた患者さんもいらっしゃったようです」

 院内の人間関係も微妙に変化してストレスがたまっている。

「誰もが感染したくないのでリスクのある仕事はしたがりません。現在、人手の足りない感染症の患者さんの治療のために、一般外来担当の看護師さんら医療スタッフも助っ人として駆り出されていますが、その不満が出ているようです」

 仲間内では「それなら病院を辞める」と発言する人もいるという。

「病院には清掃やコピーをするスタッフの人が働いています。院内感染がわかってからは、“コロナ感染患者さんに関わる仕事はしません”と言い出す人もいるようです。多くは派遣会社から来ているので会社の方針なのかもしれません。代わりに感染者が触れる入退院の書類のコピー取りやベッドメーキングなども看護師さんの仕事になり、不満が高まっていると聞いています」

 憩いの場となる職員向けの食堂もギスギスしたものになっているらしい。

「通常は広い長テーブルでみんなで食べるのですが、いまはついたてで覆われて一人で黙々と食べるようになっています。会話も飛沫が怖いからとできにくい雰囲気です」

■うつ病になるスタッフも

 そんなスタッフがなによりつらいのが自宅での生活だという。

「世間のコロナ差別がひどい。子供や介護が必要な老人を抱えている人は預け先に相当苦労しています。いままで仲が良かった保育園の先生から、『明日からは来ないでくれ』『預かれません』と言われたり、老親の預かりを拒否されたりするスタッフが続出しています。コロナ休校で子供は家にいるし、テレワークのダンナさんは今後の生活を心配してイライラしていて大変なようです。職場では緊張を強いられて、家庭がギクシャクして逃げ場がなくなり、うつになる人もいます」

 病院内にはそのための相談室も設置されている。

「いまは、医療の最前線で働く医師や看護師、スタッフの安全を担保するマスクや防護服など医療資材の安定供給、危険手当など報酬の見直し、働く人の子供の預け先の確保などを十分にしていただきたいと切に願っています」

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