研究33年ウイルス学者が語る新型コロナ

基礎知識の不足が混乱に拍車「ウイルスとは何なのか」

新型コロナウイルスの分離株
新型コロナウイルスの分離株(C)ロイター

 新型コロナウイルスが出現して、にわかにウイルスに対する関心が高まっている。以前にも、ノロウイルス、インフルエンザの流行とともに人々の関心が高まったが、これほどまでに社会に影響を与えたウイルスは初めてだと思う。

 ウイルスは人の生活と密接に関係しているが、私たちは中学や高校の生物学や保健体育では、ウイルスのことはほとんど教わっていない。また、私たちは、さまざまな病原体にさらされ、病気になり、そこから回復するが、その原動力となっている免疫学の基礎的知識もほとんど教わっていない。

 大学の教養課程においても、ウイルス学と免疫学を体系的に教えているところはほとんどない。多くの知識人がマスコミなどでウイルスに対してコメントをしているが、基礎的知識に乏しい方がいて、逆に混乱を招いている。一般の方のウイルスに対する知識の乏しさが、現在の社会の混乱をもたらしていることは否めないと思う。

 本連載では、新型コロナウイルスを話題の中心にして、ウイルス学や免疫学の最低限の知識が身につくようにしたいと思う。

 最初の問いは、「ウイルスとはなんぞや」である。ウイルスは微生物の一種である。微生物には、ウイルスだけでなく、細菌や真菌、マイコプラズマ、寄生虫がある。ウイルスがその他の微生物と決定的に異なることは、「必要な栄養素がどれだけあったとしても、単独では増えられない」ということである。ウイルスは、増殖に必要なタンパク質を合成するシステムを持っておらず、ウイルスが感染する生き物(宿主)の細胞内の装置を借りなければならない。ウイルスは細胞に感染しない限り、自らの子孫を作ることが出来ず死んでしまう運命なのである。ウイルスは常に生き物をわたり歩いていく、「彷徨える生き物」と言える。 (つづく)

宮沢孝幸

宮沢孝幸

京都大学ウイルス・再生医科学研究所附属感染症モデル研究センターウイルス共進化分野准教授。日本獣医学会賞、ヤンソン賞などを受賞。小動物ウイルス病研究会、副会長。

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