研究33年ウイルス学者が語る新型コロナ

アルコールには弱いのにヒトの新興ウイルスになった理由

アルコールにはめっぽう弱い
アルコールにはめっぽう弱い

 ウイルスは細胞の中にあるタンパク質合成工場を借りて、必要なタンパク質を合成する。とにもかくにもウイルスは、細胞の中に侵入しなければならない。

 コロナウイルスは一番外側に「エンベロープ」と呼ばれる膜をかぶっている。実はこのウイルスは、細胞から飛び出してくる際に、細胞の膜を拝借してくる。従って、細胞の膜もウイルスの膜も原料は同じで「脂質」というものでできている。

 ウイルスは、エンベロープ膜をまとっているウイルス(エンベロープウイルス)と、エンベロープ膜をまとっていないウイルス(ノンエンベロープウイルス)に大別される。脂質でできている膜は有機溶媒に弱い。コロナウイルスがアルコールに弱いのはこうした理由なのである。

 コロナウイルスが細胞に入る経路は2つある。1つは細胞の表面で細胞の膜とウイルスの膜が融合する経路である。もう1つは細胞内に「エンドサイトーシス」という作用により取り込まれてから、細胞内の「エンドソーム」という区画でエンドソームの膜とウイルス膜が融合することによって侵入する経路がある。

 どちらの経路も細胞の膜上に発現する特定のタンパク質(受容体と呼ぶ)とウイルスのエンベロープ膜に存在するスパイク(S)タンパク質が結合することで、2つの膜の融合が起こる。Sタンパク質が膜融合を引き起こす分子なのである。

 新型コロナウイルスは、ACE2というタンパク質を受容体として使用する。このタンパク質は肺や腸、精巣、卵巣、腎臓、心臓、乳腺、血管など幅広い臓器や組織に発現している。このため、新型コロナウイルスはさまざまな疾病を起こしうる。

 コロナウイルスは、さまざまな受容体を使用する。新型コロナウイルスは、Sタンパク質がヒトのACE2を効率良く使用することができるよう変異したことで、ヒトの新興ウイルスとなったのである。

宮沢孝幸

宮沢孝幸

京都大学ウイルス・再生医科学研究所附属感染症モデル研究センターウイルス共進化分野准教授。日本獣医学会賞、ヤンソン賞などを受賞。小動物ウイルス病研究会、副会長。

関連記事