マスク一日中着用にリスクはないか 中国では中学生が急死

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 中国で体育の時間にマスクをしていた生徒が突然、鼻と口から血を流して急死したという。世界的にマスクが当たり前になっている感があるが、一日中、マスクを着けることにリスクはないのか? 長く地域医療と公衆衛生に携わってきた岩室紳也医師に聞いた。

 事故があったのは河南省の中学校。先月24日、体育の授業でグラウンドを走っていた3年の男子生徒が突然倒れて病院に運ばれた。口と鼻から血を流しており、死亡したという。学校は10日前に2カ月半ぶりに再開されたばかり。男子生徒は感染予防のため、マスクをしたまま運動していた。

 中国では体育の授業中に生徒が倒れる事故が相次いでいて、他にも2人の生徒が亡くなっている。死亡した3人のうち2人は医療用のN95マスクだったという。

「生徒さんを直接診たわけでも、検査結果を確認したわけでもありませんからハッキリしたことは言えません。ただ、口や鼻から出血していることから、ひとつの可能性としては陰圧性肺水腫が考えられます」

 肺には、肺胞と呼ばれるブドウの房状の袋がある。そこに空気を吸い込むことで血液に酸素を送り込み、血液中の二酸化炭素を放出する。

 肺胞の周りには網目状の毛細血管が取りついているが、肺水腫はこの毛細血管から血液の液体成分が肺胞内へ染み出した状態をいう。肺胞の中に液体成分がたまるため、肺での酸素の取り込みが障害され、ひどいと呼吸不全に陥ることがある。

「肺水腫は心臓のポンプ機能が落ちて発症する場合とそれ以外の原因で起きる場合があります。陰圧性肺水腫は呼気を吐き出した後、上気道が閉塞して吸気が入らないため胸の圧力が急激に低下したときに起こる病態です。気密性の高いN95マスクを体育時に着けると呼気はマスクの接着面から出ても、汗でマスクと顔の皮膚の接着力が高まり、マスク面を通した換気ができなくなり、空気を十分に吸えなくなって胸圧が低下して、陰圧性肺水腫が起きたのかもしれません。出血はそれに続く陰圧性肺胞出血の可能性があります」

■着けることのリスクを知るべき

 肺水腫の主な症状は呼吸困難だ。皮膚や口唇は紫色になり、冷や汗をかいて血圧が下がり、意識状態が悪くなる。胸腔の陰圧がひどい場合はさらに、陰圧性肺胞出血が起きる。気道粘膜にある血管や、肺胞・毛細管膜がダメージを受けて、気管や気管支出血や肺胞出血が生じるからだ。

 もちろんマスクをしているとマスク内にとどまった呼気をそのまま吸い込むため、呼気で排出すべき二酸化炭素を再吸入してしまい、二酸化炭素中毒になる可能性が高い。気密性の高いマスクをすることで陰圧性肺水腫と二酸化炭素中毒が同時に起こった可能性もあるという。二酸化炭素中毒とは呼吸が困難になり、空気中の濃度が3~4%(普通の呼気の中の濃度)で頭痛・めまい・吐き気などが表れ、7%を超えると意識を失い、その状態が続くと呼吸停止の状態になり20%を超える状態だと数秒で死に至ってしまう。逆に運動時に呼吸が苦にならない人は、マスクの装着法やマスク自体の性能に問題がある可能性も考えられる。

 実はマスクを着け続けることは他にも問題を起こす可能性がある。そのひとつが熱中症だ。マスクを着け続けることで熱中症を自覚しづらくする可能性もあるという。

「外出自粛で、例年この時期に行われる暑熱順化ができなくなるうえ、筋肉量も減っています。筋肉は体に水分をためるもっとも大きな臓器です。その量が減ることは体内の水分量減少を意味します。つまり、多くの人はいま脱水になりやすい状態にあるのです」

 これに拍車をかけるのがマスクだという。マスクを着け続けることで、体内に熱がこもりやすくなるからだ。

「マスクを着け続けていると、マスク内の湿度があることで喉の渇きを感じづらくなる可能性もあり、ただでさえ喉の渇きのセンサーが衰えている高齢者は知らないうちに脱水が進み、熱中症となるリスクが高まりかねません。マスクを外してはいけないという思いから、水分補給を避けてしまうことも脱水の一因になりえるでしょう」

 気温や湿度が上がれば当然、マスクの表面にはウイルスだけでなく細菌やカビが繁殖する可能性が高くなってくる。

「冬に比べると暑さや息苦しさからマスクの表面に触る回数が増えるため、ウイルスや細菌、真菌などが付着しやすくなりますからね」

 マスク着用で他人に新型コロナウイルスをうつすリスクを下げられるかもしれない、との考えに異論はない。しかし、これからの季節、マスクを着け続けることにリスクがあることも知っておくべきだ。

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