死なせる医療 訪問診療医が立ち会った人生の最期

病院への搬送がプラスに働いた98歳一人暮らしの元女優

小堀鷗一郎医師(C)日刊ゲンダイ

「退院の意思を聞いたら、『もう少し入院してもいい』と言うのです。その理由を聞くと、病棟の担当医による口内炎の治療がきっかけでした。『口の中に指を入れて薬を塗ってもらったの。こんなに優しい先生がいるのなら入院生活もいいわ~』と言っていました」

 その後は、食事も十分に取れるようになって、体調は劇的に回復した。自宅には戻らず施設に入り、穏やかに暮らしている。

「お見舞いに行った時は、あでやかな黄色の洋服に同色のヘアバンドというファッションで出迎えてくれました。セピア色の世界を施設で築いているのです。あの時、病棟の担当医が口の中に指を入れなかったら、彼女は私の指導の下で、自宅に身を置くことになったはず。そうなると、今のような人間らしい生活、輝いていたひと時に浸る生活は送れなかったのではないかと思います」

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小堀鷗一郎

小堀鷗一郎

1938年、東京生まれ。東大医学部卒。東大医学部付属病院第1外科を経て国立国際医療センターに勤務し、同病院長を最後に65歳で定年退職。埼玉県新座市の堀ノ内病院で訪問診療に携わるようになる。母方の祖父は森鴎外。著書に「死を生きた人びと 訪問診療医と355人の患者」(みすず書房)。

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