「退院の意思を聞いたら、『もう少し入院してもいい』と言うのです。その理由を聞くと、病棟の担当医による口内炎の治療がきっかけでした。『口の中に指を入れて薬を塗ってもらったの。こんなに優しい先生がいるのなら入院生活もいいわ~』と言っていました」
その後は、食事も十分に取れるようになって、体調は劇的に回復した。自宅には戻らず施設に入り、穏やかに暮らしている。
「お見舞いに行った時は、あでやかな黄色の洋服に同色のヘアバンドというファッションで出迎えてくれました。セピア色の世界を施設で築いているのです。あの時、病棟の担当医が口の中に指を入れなかったら、彼女は私の指導の下で、自宅に身を置くことになったはず。そうなると、今のような人間らしい生活、輝いていたひと時に浸る生活は送れなかったのではないかと思います」
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