新型コロナ血栓の怖さと対処法 死因は肺炎だけではない

(米国立アレルギー感染症研究所提供)

【緊急寄稿】東丸貴信(東邦大学名誉教授)

 新型コロナウイルス感染症(COVID―19)は肺炎が主体の病気だが、最近、血栓ができることが問題になっている。足の先が赤く腫れる程度の症状から、脳や心臓などの太い血管が詰まり重症になることも報告されている。正常の頚動脈や末梢の血管、カテーテル内にもでき、治療で消失することが内外で報告されている。肺炎症状が治まっても、血栓が障害を引き起こす恐れがある。

 COVID―19の国際研究が「米国心臓病学会誌」(JACC)4月号に報告され、静脈系・動脈系問わず、血管の炎症、血小板の活性化、内膜の障害と機能の低下、血流の滞りなどによる血栓症が死因に直結することが示された。血栓は、全身の血管にできるといわれている。オランダで血栓予防薬を投与されていたCOVID―19肺炎の研究では、血栓性合併症の累積発生率は31%。そのうち27%は深部静脈血栓症(DVT)であり、動脈血栓イベントは3・7%だった。

 最も多かったのが、肺塞栓症(PE)だ。下肢深部静脈血栓が飛ぶことで肺に向かう血液の流れが止まり、呼吸困難を引き起こす。

 高齢と血液の固まりやすさを示すプロトロンビン時間(PT)の延長が、血栓症の起こりやすさに関係していた。健康そうに見えるCOVID―19患者が突然倒れ、血液の深刻な酸素不足に陥るのはこれが原因のひとつと考えられる。

 COVID―19で血栓ができるメカニズムは現段階では次のような可能性が考えられている。

(1)新型コロナウイルスが血管内皮に感染して炎症を起こすことがしばしばあり、微小血管などで血栓ができやすくなる。

(2)感染により敗血症や間質性肺炎になると、酸化ストレスが強まるが、これは微小血栓ができる播種性血管内凝固症候群(DIC)の発症に関係する。

(3)感染細胞から放出されるサイトカインシグナルが、免疫細胞(Tリンパ球)を感染部位に誘導する。集まった免疫細胞からもIL6などの炎症性サイトカインが放出され、サイトカインストームを起こす。これが凝固因子Ⅱ(トロンビン)を活性化して、フィブリノーゲンからフィブリン塊ができ、血小板や血球などを取り込んで血栓ができる。また、トロンビンは炎症反応をさらに強めて、血栓がどんどん成長する。このような血栓は太めの血管にもできやすい。

■入院時に血栓に関わる検査が必要

 いずれにしろ、全身の血液は固まりやすくなる。そこに血管炎があれば、さらに拍車が掛かる。血栓はそれができた場所を詰まらせるだけでない。末梢に飛び、血管を詰まらせる場合もある。急性心筋梗塞、脳梗塞、末梢動脈血栓塞栓症、静脈血栓塞栓症(DVT+PE)などを生じ得る。米国の俳優が足の血栓のため、脚を切断したことは有名だ。

 米国マウントサイナイ病院では、50歳未満の軽症のCOVID―19患者から、脳梗塞を併発した症例が2週間で5人も出た。

 このように若く動脈硬化症が見られない人に急性心筋梗塞や脳梗塞が起こる原因は、血管炎による血栓か、血管の病気に無関係な血栓によるものと考えられる。

 COVID―19血栓症の血液検査では、血小板減少により、D―ダイマー(血栓が溶けてできるもの)の上昇、血液の固まりやすさを示す活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)とプロトロンビン時間の延長が認められる。特に、D―ダイマー上昇は重要で中国の症例では約半分に上昇が見られたとされ、入院時にかなり高めの患者は死亡リスクが約18倍高かったといわれている。また、PT延長も死亡リスクと関係すると報告されている。

 今年3月、ついに国際止血血栓学会は、COVID―19患者には症状の軽重を問わず、血小板、D―ダイマー、PT、フィブリノーゲンのチェックを推奨するに至った。特にD―ダイマーの上昇は、静脈血栓塞栓症を疑い、心臓や下肢静脈の超音波検査を考慮する必要がある。MRIによる脳梗塞や血栓症のチェックも欠かせない。血液検査と画像診断の組み合わせで、血栓症と血管炎の正確な診断が可能となる。

 重症のCOVID―19患者では新規抗凝固薬エドキサバンなどによる予防的抗凝固療法が合理的と思われる。低分子ヘパリンなどの抗凝固薬や血栓溶解薬で治療されるが、抗血栓剤の効果は限定的で、現病の治療が重要である。

東丸貴信

東丸貴信

東京大学医学部卒。東邦大学医療センター佐倉病院臨床生理・循環器センター教授、日赤医療センター循環器科部長などを歴任。血管内治療学会理事、心臓血管内視鏡学会理事、成人病学会理事、脈管学会評議員、世界心臓病会議部会長。日本循環器学会認定専門医、日本内科学会認定・指導医、日本脈管学会専門医、心臓血管内視鏡学会専門医。

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